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25 ノートと絵画




 初日は何の成果も得られなかった…

 次の日も暇だからまた五十鈴さんと二人きりで芸術室で整理整頓してるけど、こんなふうに夏休みを過ごしてて良いのかな?


「五十鈴さん」


「ん……?」


「貴重な夏休みですし他にやりたいことがあったら、そっちを優先してもいいんですよ?やりたいことノートも今年は進んでいませんよね」


 五十鈴さんにはやりたいことが山のようにあるのに、こんな所で時間を浪費していいのだろうか。


「ノートを一緒に書いてくれたアメ先輩が言ってたんだ……」


「ほほう?」


「“やりたいこと”と“やらなくちゃいけないこと”を混同させてはいけない。ノートに囚われないで、目の前のやりたいことを優先しようって……」


「…なるほど」


 確かに先輩の言う通りだと思う。

 楽しく遊ぶ際、使命感なんて一番必要のないものだ。アメ先輩は姿を現さないけどちゃんと五十鈴さんのことを考えてくれている。


「でも……書きかけのまま終わらせたくはないかも」


「ええ、そこは筒紙さんと同じかもしれませんね」


 筒紙さんが探している描きかけの絵画。

 五十鈴さんが目標にしているやりたいことノート。


 どちらも完成されないまま、学校生活を終わらせたくないよね。


「いっそのこと筒紙さんを美術部に勧誘してみます?」


 僕は思い切ってそう提案してみた。


「悩みもそうですけど、絵画の天才なんて美術部にピッタリじゃないですか」


「うーん……」


 でも五十鈴さんは微妙な反応だ。なんでだろう…筒紙さんとの親睦が深まるだけじゃなく、部活動も盛り上がる一石二鳥の手だと思うんだけど。


 …とか言いつつ、僕にも前向きになれない理由がある。

 だって五十鈴さんとの二人だけの時間がなくなってしまうから。


 ………


 もしかして五十鈴さんも同じ気持ちだったりして。


 ゴトッ


「おや?」


「あ……」


 そんな会話を続けながら部屋を整理していると、上の棚にある物が滑り落ちてきた。布に巻かれた長方形の物体…もしかしたら絵画かもしれない。


「調べてみましょう」


「うん……」


 慎重に布を剥がしてみる。

 お、意外と埃は被ってないぞ。


「これはパネルケースですね」


 美大生とかがよく持ち歩いている、デッサン用紙などの薄くて大きな物を持ち運ぶためのケースだ。しかもかなり頑丈な作りで鍵まで付いている。


「鍵ですか…」


「開かない……」


 中身は確認できないけど、これは非常に怪しい。

 筒紙さんに見てもらった方がよさそうだ。





 ということで後日。

 筒紙さんににゃいんで連絡をしたら、二つ返事で学校まで足を運んでくれた。無口な孤立主義の芸術家だと思っていたけど、意外と行動的でノリがいいんだよね。


 芸術室には行けないから僕たちの教室に集まっている。


「見つけた怪しいものがこれなんですけど」


 早速、パネルケースを机の上に置いた。


「これは…!」


 すると筒紙さんはすぐ反応した。


「間違いない、姉の私物だ」


 姉の私物?

 もしかして先輩ってお姉さんのことなのか。


「筒紙さん、お姉さんがいたんだ……」


「え、ええ…姉は自分の手掛けた作品や私物に“ゆき印”を付けるの」


 筒紙さんがパネルケースの端を撫でると、そこには確かに“ゆき”と書かれていた。いきなりお目当ての物を探し出せたんだ。


「鍵が付いて開かないんですけど、筒紙さん持っていますか?」


「ううん…姉はすごいズボラで、鍵なんてかけない性分のはずだけど」


「なら本人に確認すれば…」


「…」


 この反応…どうやら会えない事情がありそうだ。


「念のため改めて自宅を探索してみる」


 そう言って筒紙さんはパネルケースを受け取る。


「その…あ、ありがとう」


 そして最後にお礼を言ってくれた。

 まだまだ謎は多いけど、ちょっとは捜査が進展して良かった。


「さて、せっかく集まったので寄り道しながら帰りましょうか」


「賛成……!」


「…いいでしょう」


 何だかんだ筒紙さんとの仲も深まったから、そろそろ五十鈴さんグループに合流できるかもしれないな。後で五十鈴さんと話し合ってみよう。

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