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11 電話とサボり②




 月曜日の朝。

 平日だからもちろん学校がある。


「いってきます」


「いってきマンモス」


 僕と妹は戸締りをして家を出た。

 うちの両親は共働きで海外にいるから、僕らはいわゆる鍵っ子というやつだ。もうこの生活には慣れたけど、親はもっと頻繁に帰ってきてほしいものだ。


「じゃーねお兄ちゃん」


「ん、車に気を付けろよ」


 妹とは家の前で別れる。

 まだ松葉杖だから多少は心配だけど、少し歩くともう友達と合流している。あいつは交友関係が広いから、頼まなくてもクラスのみんながサポートしてくれる。


「さて…」


 僕も学校に………は向かわない。


「………」


 向かうのは華岡ではなく、五十鈴さん宅の近くにある公園だ。僕も真面目な部類の学生だから、こんなに堂々と学校をサボるのは初めてで少し緊張する。


 まさか五十鈴さんからあんな提案をされるとは…


『一緒に学校サボらない……?』


 五十鈴さんのお願いなら何でも聞いてあげるつもりだった僕は、条件反射でオッケーしてしまった。細かいサボり計画は五十鈴さんが立ててくれるらしいけど、はたしてどうなることやら。


「この公園だな」


 待ち合わせ場所である公園に到着した。ここに来るのも久しぶりだな…小学生の頃、よく妹と幼馴染で集まってここで遊んでたな。


 さて、約束の時間より三十分も早く着いたわけだけど。


「……」


 やっぱり、もう五十鈴さんは公園のベンチに座って待機してる。朝の登校時間も早いし、何分前に着いてたんだろう?


 次に五十鈴さんと待ち合わせる時は、一時間くらい早く向かうようにしよう。


「……!」


 五十鈴さんも僕に気付いて、こっちに駆け寄ってくる。


「おはようございます、五十鈴さん」


「おはよう、園田くん……」


「…」


「……」


 そしてお互いに沈黙する。

 二人で学校をサボって、公園で待ち合わせ…思った以上に気恥ずかしい状況だぞ。


「では行きますか…サボりに」


「う、うん……!」


 じっとしていても始まらない。

 学校をサボって何をするか、電話である程度の予定は話し合っている。


「まずはコンビニですね」


 今日の目的は、朝から放課後まで学校をサボることだ。だからまずお昼ごはんを用意しなければならない。


「うん……今度は、アメリカンドックっていうの食べたい」


 この前の寄り道から五十鈴さんはすっかりコンビニを気に入っている。きっと次はハンバーガーとか、カップヌードルとかにハマったりするんだろうな。


「コンビニの次は、落ち着ける場所に行くんですよね」


 問題になるのは人目につかずゆっくりできる場所の確保だ。

 この近辺や華岡の敷地内には様々な店があって、時間を潰せる場所はいくらでもある。でも平日に制服姿でそんなところに長居してたら確実に補導される上、変な噂も立ってしまう。


「うん、とっておきの隠れ家がある……」


 そこで五十鈴さんにアイデアがあるらしい。

 どこに案内してくれるのかな?





 僕らはコンビニで食べ物を買い込み、五十鈴さんの言っていたとっておきの隠れ家に到着した。


「なるほど…」


 そこは五十鈴さんが入院していた病院の中庭だ。


 確かにここなら周囲の目を気にせずゆっくりできるし、補導員が来ることもないから安心だ。でも退院した五十鈴さんがここを利用していいのだろうか。


「あら、蘭子ちゃん。こんにちは」


 早速、ナースさんに声をかけられた。


「こんにちは……」


「あら~制服可愛いね」


「どうも……」


 ナースさんと親しげに話す五十鈴さん。


「今日はどうしたの?学校じゃないの?」


「サボり……!」


 五十鈴さんは躊躇うことなく大胆発言。

 するとナースさんは僕を見る。


「…悪い友達?」


「ち、違います!」


 いや、違わないかもだけど…

 状況が状況だけに否定しづらい。


「私が悪い子なの……今日だけ……」


「そうなの?ならいいけど」


「あの……中庭、使っていいですか……?」


「ええ、いいわよ」


 ナースさんはあっさりと中庭の使用許可をくれた。


「いいんですか?」


「いいのいいの、蘭子ちゃんは特別だから。その友達である君も特別ですからね」


 そう微笑んだナースさんは手を振ってこの場から立ち去った。


「優しいナースさんですね」


「うん……入院中、ずっと私のことを気にかけてくれてた……」


 やっぱり五十鈴さん、病院で働く人たちには愛されていたんだな。


「園田くん……行こう」


「は、はい」


 取りあえず僕らは中庭に入って、白いベンチに荷物を下ろす。


「それでは、何をしましょう?」


 この後の予定を五十鈴さんに尋ねた。


「勉強……!」


 五十鈴さんは鞄から教科書を取り出す。

 学校を休んで勉強って、本末転倒のような…


「教室だと……まだ勉強に集中できない。この問題も、わからない……」


「あ、そこは五十鈴さんが風邪で休んでいる間に授業でやってた範囲ですね」


「そんなんだ……」


「僕のノートを貸しますよ」


「ありがとう……」


 こうして学校をサボった僕たちは、真面目に勉強をした。

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