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24 かきかけの絵画




 その後、にゃいんのやりとりはこう続いた。


『探している絵ですか?』


『どんな絵……?』


『私も詳しいことは何も分からないんだけど、分かるのは完成されていない描きかけの絵画だってことだけ。この華岡学園の何処かに隠されているらしいんだけど…』


 筒紙さんは大まかに事情を伝えてくれた。


『雲を掴むような話ですね』


『この広い学園の何処かに……』


 僕と五十鈴さんも知らない振りをするけど、ここまでなら進路調査書で知っている情報だ。


『他に絵を探すヒントってありますか?』


 もう少しだけ情報を引き出しておきたい。


『高校生だった頃の上級生が、途中で絵を描くことを断念するしかなかった。それを私に探し出して完成させてほしい…言えるのはこれくらい』


『なるほど』


 うーん…つまり卒業した先輩からの依頼ってことか?内容だけ聞くと楽しそうだけど、筒紙さんからは切羽詰まったような雰囲気を感じる。


 詳しい詮索はしない方がよさそうだ。

 それに美術品が隠されている場所には心当たりがある。


『分かった、探してみる……!』


 五十鈴さんも同じことを考えているようだ。





 季節は巡って夏休み。


 今年の夏も五十鈴さんたちの提案で、休みが始まる前に教室に集まって宿題一掃作戦が開始された。朽木さんや一枝くんは駄々をこねていたけど終わったら喜びで舞い踊っていた。


 そして僕と五十鈴さんも好きなだけ夏休みの時間を自由に使える。


「それでは本格的に整理しますか」


「うん……!」


 夏休み初日。

 僕らは芸術室に集まって整理整頓に励んでいた。


 やや年季のある冷房設備の電源を入れて熱中症対策も万全。お昼ごはんは何と五十鈴さんが手作り弁当を用意してくれた。昼食が待ち遠しいけど、本来の目的を見失ってはいけない。


「体育祭やら学園祭やらが終わるとまた物が増えるので、出来れば夏休み中に見つけたいですね」


「がんばろう……」


 奥の方で蜘蛛の巣を張ってる昭和の空間は無視して、近年に倉庫入りした外側に絞って整理を進めてみよう。


「そういえば日ノ国さんたちと遊ぶ約束したんですよね」


「うん……プールに、夏祭りっ」


 整理をしている間は適当に雑談でもしよう。


「良かったですね」


「園田くんも来る……?」


「…都合が良ければ」


「でも芸術室の整理は、二人の時にやろう……」


「ええ、そうしましょう」


「うん……」


「それにしても今年はあっという間ですね。夏休みが終わったらもう体育祭と学園祭ですよ」


「一年の時よりも早く感じる……」


「やっぱり高校デビューした一年生生活が濃密すぎたんですよ」


「今年も複雑だけどね……」


「あ、絵画っぽいのを発見しました…けど完成されてますね」


「こっちのケースは……デッサンの束だった」


 そんな感じでだらだらと整理整頓をしている。

 この部屋に隠されていること自体が憶測でしかないから、やっぱり別の場所に保管されているか…もしくは誰かが所持している可能性もあり得る。


 もっと筒紙さんから情報が引き出せればいいんだけど。


「あら、こんなに暑いのに気合が入っていますね」


 すると杉咲先生が様子を見に来てくれた。

 なんだか久しぶりに会った気がする。


「おはようございます」


「おはようございます……」


「はい、おはよう」


 …あ、そうだ。

 わざわざこの部屋を整理しなくても、物を集めた張本人である先生に尋ねればいいじゃないか。仮になかったとしても描きかけの絵画に心当たりがあるかもしれない。


「実は探している物があるんです……」


 さっそく五十鈴さんが相談してくれた。


「どんな物を探してるの?」


「筒紙さんというクラスメイトが探している描きかけの絵画です……」


「…」


 何故か杉咲先生は黙ってしまった。


「うーん…ごめんなさい、覚えがないわね」


 でもすぐそう返してきた。

 何だろ、この含みのある反応は。


「それじゃあ頑張ってね~」


 そう言い残して先生は何処かに行ってしまった。


 何やら妙に引っかかるけど、覚えてないと言われたからには仕方ない。僕と五十鈴さんで地道に探すしかない。

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