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23 筒紙さんの一歩




 図書室を後にした三人は下校するため、正門までの長い道のりをゆっくり歩いている。普段は美術室で解散するので一緒に帰宅するのはこれが初めてだ。


「最初は新設された図書館が怪しいと思ったんですけど、城井くんからの噂話で古い図書室の存在に気付けたんです」


「外に絵の時計塔がないことは、いつもランニングしてる朽木さんが保証してくれた……それでみんなで時計のありそうな場所を絞ったんだ」


 園田くんと五十鈴さんは推理の補足をしてくれる。


「そんなに頑張って調べてくれたんだ」


 筒紙さんは素直に感心していた。


「雑談のネタにしてただけですけどね」


「みんなの力を合わせたら簡単……」


 二人は絵画の謎を解いてすっきりしている。


「三人寄れば文殊の知恵ね」


 そう呟いて筒紙さんは改めて、頼ることの重要性を痛感していた。


(この二人の力を借りれば“かきかけの絵”を探し出せるかも…)


 まだ知り合った期間は短いが三人はそれなりに気を許せる仲になっている。選択授業は後期になると終わってしまうので、なるべく早く行動に出なければ手遅れになってしまう。


(でも死んだ姉の遺言で絵を探しているなんて、内容が重すぎて気軽に頼めることじゃない)


 だが距離感が曖昧なだけに大きな一歩は踏み出せない。


「そういえば筒紙さんってにゃいんはやっていますか?」


 すると園田くんがスマホを取り出した。因みに“にゃいん”とは老若男女の誰しもが利用している、世界最大のチャットアプリのことだ。


「…ダウンロードはしてあるけど」


「良ければ登録して、次の学園祭の準備に協力してくれませんか?」


「学園祭ってまだ先じゃないの?」


「実はもうクラス委員に予定表が配られてるんですよ」


「随分と気合が入ってるのね」


 体育祭と違って学園祭なら筒紙さんにも活躍の場があるので、それを聞いて選択授業が終わった後の不安は解消された。


「選択授業がない日でも話そう……」


 そう言って五十鈴さんもスマホを取り出す。


「じゃあ…はい」


 筒紙さんは流されるまま、二人をにゃいんに登録した。家族以外で連絡先を交換したのはこれが初めてである。





 筒紙さんは自室のアトリエにあるイーゼルと向き合っている。


(どうやって連絡すればいい?)


 イーゼルに置かれているのは画材ではなくスマホだ。今は絵画よりももっと難易度の高い挑戦に頭を悩ませていた。


(いきなり本題に入るのは急だから気の利いた話題でも…だからといって私には絵画以外に取柄がないし、そんなの授業でしてるからつまらない)


 まず何から話し始めればいいのか一人で悶々とする筒紙さん。


(学園祭について…話題としては固いか…まずは挨拶…その後どうする…?)


 にゃーん


 その時、スマホから猫の通知音が鳴り響く。


「…」


 驚きつつ筒紙さんは慎重に中身を確認した。


『絵画の余談なんですけど時計、栞、妖怪の頭文字を取ると“としょ”になりますね』


『図書……なるほど』


『描いた人が意図したのかは謎ですけど』


『今回はその①だったから、その②が楽しみだね……』


 園田くんと五十鈴さんは好き勝手にチャットをしている。


「はぁ」


 それを見て筒紙さんは小難しく考えることが阿保らしく思えてしまった。


(姉なんて見習いたくないけど…もっとフランクに、もっとアグレッシブに)


 気持ちを切り替えた筒紙さんは指で軽くメッセージを入力した。




『関連性はあまりないけど、実は探している絵がある』

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