21 時計の絵画②
「絵画の元になった場所を探してる?」
とある日のお昼休み。
女子組は中庭で昼食を取りながら、五十鈴さんはスマートフォンで撮影した絵画の写真を朽木さんたちに見せていた。
「何処で描いたのか気になる……!」
五十鈴さんはみんなから意見を求めた。
「抽象画…空想ではないのだな」
「現実にありそうなのは時計くらいか」
日ノ国さんと出雲さんは真剣に絵の背景を観察する。
「うちの学校の敷地って、色々な時計塔があるよね」
朽木さんはまず中庭にある時計に目を向けた。
「ふむ…中庭にあるレトロな時計に、校門の正面にある鉄製の時計。大学部と中等部、各グラウンドにもいくつか設置されているな」
日ノ国さんは心当たりのある時計を羅列した。
「だがこんな木製の時計塔は見覚えがない」
「そっか……」
それを聞いて五十鈴さんは落ち込む。
「そもそも木製の時計が屋外にあるのだろうか?」
ここで出雲さんはそんな疑問を述べる。
「誇張されて巨大な時計塔のように描かれているが、大まかなデザインはアンティーク型の置き時計のようだ」
「ああ~お洒落な喫茶店とかにあるやつね」
朽木さんは納得したように頷く。
「そっか……ありのまま見比べたら駄目なんだ」
五十鈴さんは考え方が根本的に間違っていたことに気付く。
抽象絵画ならば時計台、カラフルな背景、妖怪をそのままに捉えてはいけない。何故ならすべて絵師のセンスで描き替えられている可能性が高いからだ。
「でも何処にあるのかな……」
室内だと分かったとしても華岡学園はとにかく広いので、絵のヒントだけで時計を探し出すのは困難だ。
「一つ気付いたことがある」
すると日ノ国さんは一枚の紙を取り出した。
「絵に描かれている短冊のような物体…これに類似している」
その手に持っている小さな紙切れは、確かに絵画に描かれた札のようなものに似ている。
「……!」
五十鈴さんは着実に目的地へ辿り着くためのヒントを得ていた。
※
その頃、男子組は教室で食事をとっている。
「ねぇ城井くん」
園田くんはコンビニで買ったパンの袋を開けながら、五十鈴さんと同じように情報収集をしていた。
「この学校で妖怪に関する噂ってある?」
「…やぶから棒だね」
城井くんは同じパンを食べながら訝しむ。
「でも妖怪といえばオカルト、オカルト研究会の噂でいいかな?」
「華岡ってそんなのもあんのか」
そんな会話を聞いていた一枝くんは、大盛り弁当を食べながらぼそっと呟く。
「オカルトに関する噂話は好きだからけっこう詳しいよ~」
城井くんは食事を中断して新聞紙を取り出す。
「これは新聞部が発行したものだよ」
「…どう見ても普通の新聞紙だけど」
園田くんは学生が作ったとは思えない新聞紙を受け取る。華岡の天才がやることはいつだって大人顔負けだが、今に始まったことではないので気にせず中を確認した。
「どれどれ…オカルト研究会が心霊特番に出演。未確認のUMA発見に、妖怪屋敷探索の続報かぁ」
世間ではオカルトブームが巻き起こっていると記載されている。
「こんなに盛り上がってたんだ」
「全然知らなかったぞ」
「ニッチな世界だから園田くんと田中くんの耳に入らないのも無理ないよ」
感心する二人に城井くんは続ける。
「テレビ出演とかの活躍でオカルト研究会はだいぶ出世したみたいだよ。部員数と部費も増えて、図書室にオカルトスペースが設置されたとか」
「へぇ~」
園田くんはまた一つ、華岡学園に隠された未知の世界を垣間見てしまった。
「それでオカルト研究会の部室って何処にあるの?」
「わからない」
「え、知らないの?」
「世界中に隠されたロマンを探し出すには、自分たちの存在も秘匿にするべき…とか言って秘密裏に活動してるみたい」
「へ、へぇ~」
オカルト研究会の方針はともかくとして、噂好きの城井くんが知らないのなら自分が探しても無駄だと園田くんは部室探しを諦める。
(ただ…行ってみたい所はできたかな)
それでも園田くんは探索すべきポイントに目星を付けていた。




