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20 時計の絵画①




 体育祭でクラスが盛り上がっている中でも筒紙さんとの関係は進展していない。今の五十鈴さんなら大胆に距離を縮めることも可能なのだが、特別な時間にだけ会える特別な友達…そんな奇妙な関係を気に入っているのだ。


「それでは二人は絵の道には進まないのね」


 既に課題を終えた筒紙さんは参考書を捲りながら二人に話しかける。


「選択科目って二つの学科を選ぶじゃないですか」


 園田くんは鉛筆を走らせながらスニーカーのデッサンを進める。


「本命の学科は別で選択してるんですけど、もう一つを五十鈴さんと話し合って決めたんです」


「ふーん…他の友達は?」


「美術に興味があるのは僕たちだけだったんですよね」


 喋りながら園田くんと五十鈴さんは頷き合う。


(…ほんとに仲いいんだな、この二人)


 そんなやり取りを見てそう思う筒紙さん。


「数ある中から美術を選んだのは賢い判断ね。デッサンは集中力と仕事力を養うのにもってこい、学んで損のない学科だから」


 そう言い切って筒紙さんは参考書を閉じた。


「ええ、美術を選んで正解でした」


「勉強になって楽しい……」


 園田くんと五十鈴さんは迷いなくそう答える。普段の授業を楽しいと感じることが少ない二人だが、この選択授業の一時だけは心の底から楽しかった。


「それなら良かった」


 筒紙さんは小さな笑みを溢していた。





 放課後。

 普段なら三人はすぐ別々で下校してしまうのだが、今日は珍しく美術室の隅っこに飾られた絵の前に集まっている。


「この絵、すごいですよね」

「上手だけど不思議な絵……」

「ふぅん」


 園田くんと五十鈴さんはその絵画が妙に気になってしまい、筒紙さんは流れで二人の元に足を運んでいた。


「タイトルは“華岡学園の風景・その①”ですけど…どう見ても空想の絵ですよね」


 そして園田くんはこの絵画の違和感に気付く。


 カラフルな背景。

 立派な木製の時計塔。

 無地の札のような紙。

 迫力のない妖怪。


 とても華岡学園の風景には見えない絵だ。


「これは恐らく抽象絵画ね」


 絵に詳しい筒紙さんが憶測で解説してくれる。


「抽象絵画?」


「簡単に説明すると対象を具体的に描かない絵画。物体が持つ形、色彩、痕跡などを現実の様態から抽象して描くジャンルのこと」


「つまり風景を元にした創作絵ですか」


「そんなところね…でもタイトルからして元になった風景は必ずあるはずよ」


 三人は改めて絵画をじっくりと観察した。


「…」

「…」

「…」


 しかし学校内の風景で思い当たる場所はない。そもそも妖怪のような生き物がいる時点で、とても現実にあるとは思えない。


「…そろそろ帰りましょうか」

「うん……」

「そうね」 


 三人は考えることを諦めた。




 次の選択授業は一週間後。


 その間も“美術三人組”は集まって会話をしたりはしない。それでもあの絵に描かれた風景が何処にあるのか、ついつい校内を見回す癖がついていた。

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