18 筒紙さん①
球技大会が終わるとクラスの雰囲気は明らかに変わった。
相変わらず静かではあるが隣の席の人と休憩時間に軽い会話をすることが増えた。そして体育や化学実験、調理実習などの授業の時にクラスメイト同士で和気藹々と取り組めるようになった
そして体育祭に向けての準備も既に始まっている。
「次こそはうちのクラスが勝つわよ!」
「おー」
「お~」
「わぁ」
朽木さんがやる気に燃えているのに対して、クラスのみんなのモチベーションはそこそこ。だがそんな双方が上手く調和して良い雰囲気を作り出しているのだ。
教室の空気は初期に比べて格段に良くなっていた。
「…」
その輪に文系女子の筒紙さんは入れなかった。
※
新学期に慣れたところで二年生は選択授業が始まる。
華岡には様々な選択科目があり定番なものはもちろん、芸術や礼法、建築に工業、スポーツなどなど数えきれないほどの選択肢がある。様々なジャンルの天才を集めたからには設備や機材も特別なものを用意している。
筒紙さんはもちろん芸術科目、美術科の絵画を選択した。
「…」
姉が亡くなってから絵を描かなくなった筒紙さんは久しぶりに筆を取った。そして一年近くもブランクがあるとは思えないほど、上級者向けに出された課題の絵を淀みなく手掛けた。
「私が教えを請いたいくらいねぇ」
選択科目の教師も見惚れてしまう手際の良さだ。
(どうしよう)
その作業中、筒紙さんはまったく別のことを考えていた。
(クラスがまとまっているのに、また私だけ輪に混ざれない。今が最後のチャンスかもしれないのに…)
去年と同じでまた独りぼっち。
この時点で筒紙さんは二年生生活を半分諦めかけていた。
「ふぅ…」
キーンコーンカーンコーン
筒紙さんが作品を完成させて一息つくと、授業終了のチャイムが重なる。たったの二時間で見事な油絵を完成させていた。
授業も終わり後片付けをしようとした、その時。
「立派な絵画ですね」
「すごい……」
背後からそんな会話が聞こえた。いや…自意識過剰にならないよう誤認しただけで、正確には誰かが自分の絵を評価してくれたのだ。
「…」
筒紙さんが恐る恐る振り返ると、そこには園田くんと五十鈴さんの姿があった。
「同じ選択授業だったんですね」
「私たちは初心者モチーフだから気付けなかった……」
二人は気さくに話しかけてくれた。
「…いちおう経験者なので」
いきなりだったので愛想の良い返事が出来なかった筒紙さん。
「描くところ、一から見てみたい……」
それでも五十鈴さんは気にせず、筒紙さんの絵を参考にしたいとお願いをした。
「では来週は初心者用のモチーフで描きますよ」
「え、いいの……?」
「私にとって難易度はそれほど重要ではないので」
「ありがとう……」
筒紙さんと五十鈴さんは一緒に絵を描く約束をした。
「それでは、お疲れさまです」
「また明日……」
本日の授業はこれで最後なので、終わったら教室には戻らず各自で解散。園田くんと五十鈴さんはここで強引に距離を縮めず約束だけしてこの場を後にした。
「…」
筒紙さんの学園生活に一筋の光明が差した。




