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16 球技大会




 二年生の学校行事には球技大会が開催される。


 競技は男子が野球で女子はソフトボールだ。

 世間は空前絶後の野球ブーム、プロ野球で活躍している太谷選手を知らない人はいない。今となっては野球のルールは知っておいて損はない大人のスポーツだ。


 期間中の体育の授業はグラウンドで野球練習になる。


「目標は打倒、速川昴!」


 女子を仕切るのはもちろんソフトボール部の朽木さんだ。


「…」

「…」

「…」


 いきなり個人的な目標を掲げても、他の女子たちは乗れないよね。


「私は二刀流じゃないから誰かにピッチャーを任せたいんだけど…」


 朽木さんはクラスの女子たちを見定める。


「東雲美狐に任せていいかしら」


「え、私が?」


 急に白羽の矢が飛んできて驚く東雲さん。


「だって弓道やってるよね」


「…どこでそんな情報を?」


「運動部で活躍してる同学年はチェックしてるもん」


 朽木さんは知ってて当然のような口振りだけど、その情報は僕と五十鈴さんが伝えたものだ。それでも不可解に思われないのは本人も有名な天才だと自覚しているからだ。


「弓道部のピッチャー…面白そう」

「正確なストレートが期待できる」

「変化球とかは苦手そうだけどね」


 他の女子たちも面白いアイデアに和気あいあいとしている。


「ソフトボールはとにかく努力!基礎練習を重ねながら、細かいポジションとかを決めていきましょう」


 朽木さんは指導も手慣れていて安心感があるな。





 そして男子を仕切るのはもちろん野球部の一枝くんだ。


「女子たちは何やらやる気みたいだけど、俺たち男子はカジュアルにやっていこう」


 一枝くんはあまり勝つことに執着していない。

 そもそも華岡の球技大会は勝ち負けを決めるのではなく、クラスの親睦を深めると共に体を動かして野球という競技を学ぶ行事だからね。


「さて、野球に生かせる技術を持ってる奴はいないか~」


 まず希望のポジションがないか声をかけた。


「…」

「…」

「…」


 でもやっぱり率先して名乗り出てくる男子はいない。


「…これは噂なんだけど」


 ここで噂好きの城井くんが登場。


「遠野くんは学外のゴルフコンテストで優勝してたよね」


「…!?」


 急に名指しされた遠野くん。

 一度も面識のない生徒だけど、何が特技なのかは知っているぞ。


「ゴルフの天才か、面白いな」


「…野球とゴルフって関連あるのか?」


「フルスイングでボールをぶっ飛ばす競技じゃん」


「た、試したことないんだが」


 一枝くんの返答に遠野くんは苦笑いを浮かべている。


「ゴルファーのバッターか」

「へぇ、面白そうだな」

「カップインまで飛ばしてくれそう」


 面白いアイデアに他の男子たちも湧き上がっていた。


「こういうのは楽しく盛り上がればいいんだよ。練習も体力トレーニングじゃなくて、バットのスイングとキャッチボールだけで十分だ」


 一枝くんは野球のことになると冷静で穏やかになれるんだな。





 僕と五十鈴さんはそんな練習風景を遠目から眺めている。


「盛り上がってますね」


「うん、みんな楽しそう……」


 やっぱり西木野さんの言う通り、学校行事はクラスの輪を作るのにもってこいの機会だ。事前に五十鈴さんグループのみんなと作戦会議をしたのと、調査書の情報が役に立って良かった。


「あの二人は体育なら独壇場ですね」


「頼もしい……」


 朽木さんと一枝くんがクラスにいてくれてよかった。僕らじゃ体育会系みたいに勢いよく、みんなを鼓舞するなんてできないからね。

 いい流れだし僕らもそろそろ合流しよう。


「…」


 その前に、何となく筒紙さんを探してみた。


 …いた。


 クラスの輪からは少し離れている。

 文系女子だから今回の球技大会では活躍の場はないだろう。きっと早く話せる仲間を作って、未完成の絵画を探したいんだろうな。


「…」


 一瞬だけ目が合ったけどすぐ逸らされてしまった。


「あ、目が合った……」


 五十鈴さんも同じ方向を見ていたようだ。


「なんだか妙に気になってしまいますね」


「うん……」


 何かを一人で抱え込んでいることを知ってるから、どうにも懸念してしまう。とはいえ自然な流れで関係を築くのは難しい。

 どうにかしてチャンスを作れないかな。

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