15 親衛隊メンバー
色々あって後日の放課後。
出雲さんにお願いして誰も居なくなった教室で、同じクラスの五十鈴親衛隊を集めてみた。因みに落ち着いて話したいから五十鈴さんたちは先に帰らせている。
「まさか出雲さんに呼び出されるとは思わなんだ」
この人の名前は東雲美弧さん。
三白眼のような目つきが狐っぽくて、ボブヘアーも相まって名前通り巫女服が似合いそうなすらりとした女子だ。
「運命はついに私を導いてくれたか…」
次は男子の後藤前斗くん。
けっこういい体格をしているけど、喋り方は丁寧だし雰囲気も穏やかだ。偏見だけどこういう男子ってクラスに一人はいるよね。
「…」
三人目は日守透くん。
小柄で幼い顔立ちは一見すると女子っぽいけど、男物の制服を着てるから男子なんだよね。雰囲気から察するに性格はちょっと暗そうだ。
そして僕はこの三人の個性を知っている。
東雲さんは弓道の天才。
後藤くんは書道の天才。
日守くんは裁縫の天才。
これは進路希望で得た情報だから話題には使えないけど、そんな情報に頼らなくても問題はない。何故ならみんな五十鈴親衛隊のメンバーなのだから。
「それで何をするんだ、園田」
ここまでお膳立てしてくれた出雲さんは少しばつが悪そうだ。
「皆さんを集めたのは大した要件じゃないですよ。同じクラスの親衛隊がどんな人なのか、ちょっと気になっただけです」
話題はもちろん五十鈴さんについて。
だから本人を先に帰らせたんだ。
「みんなにとって五十鈴さんはどんな存在ですか?」
「お嬢様」
「天使」
「女神…」
「…なるほど」
これはさすがに愚門だったかもしれない。
「むしろ気になるのはこちらの方…園田くんにとって五十鈴さんとは何なのですか?」
逆に後藤くんから同じ質問をされてしまった。
「ワンチャン付き合ってたりすんの~?」
「…」
東雲さんと日守くんからも探るような視線を向けられる。
「僕はたまたま偶然、五十鈴さんの最初の友達になれただけですよ。それ以上でも以下でもない関係です」
嘘偽りのない事実を打ち明ける。
「なら一安心だよ」
「健全なお付き合い、大変よろしい」
「…ん」
三人はすんなりと僕の言うことを信じてくれた。
「というか五十鈴親衛隊で集まるの、これが初めてだわ」
すると東雲さんから意外な事実が明かされる。
「え、親衛隊に加入する時に顔合わせしないんですか?」
「入隊は勧誘ポスターのQRコードからSNSアプリをダウンロードするだけで、基本的な活動はそのサイトの中でやってるから」
「へぇ~」
親衛隊はSNSでやり取りしていたのか。構成員が数百人を超えているのに、活動している姿を目にしないのはそれが原因か。
「日守くんはつぶやきだとあんなに饒舌なのに、表だとシャイボーイなのね」
「…」
東雲さんにそう言われ、日守くんは気まずそうに目を伏せる。
「アプリの存在は五十鈴さん本人には秘密にお願いします」
急に後藤くんは手を合わせてお願いしてきた。
「我々、それなりにはっちゃけているので」
「…お察しするよ」
アプリ内でどんなやり取りがされているのか少し気になるけど、僕に対する書き込みもありそうだから怖くて見に行けない。
「それはそうと、みんな普通に話せるんですね」
勇気を出して初対面のメンバーを集めてみたけど、ちゃんと会話になるじゃないか。
「てゆーか園田くんって話しやすいよね」
「人畜無害の賜物ですな」
「まぁ、そうかも」
相手が僕だから話しやすいか…ちょっと嬉しい。
「……」
その時、教室の扉が開かれる。
みんなと帰ったはずの五十鈴さんが現れた。
「五十鈴さん、どうしたんですか?」
「忘れ物……」
「あーなるほど」
「……」
当然、五十鈴さんは初対面の三人に注目した。
「おぅふ」
「おやおや」
「…」
大好きな五十鈴さんを前に三人は固まってしまった。お互いに緊張して話せないだろうから、僕が仲介した方がいいかな。
「東雲さん、後藤くん、日守くん……」
そう思っていたら、五十鈴さんが三人の名前を呼んだ。
「また明日……」
そう言い残して五十鈴さんは忘れ物を持って速やかに立ち去った。多分だけど一緒に帰る日ノ国さんたちを待たせているからだろう。
でも最初の挨拶としては丁度いいかもしれない。
「名前、覚えられてる…」
「おお…なんという僥倖」
「…」
三人共すごく嬉しそうだ。
進路希望を覗いた時にクラスメイト一人一人の名前をしっかり覚えたから、それが功を奏したようだ。
「良い兆候だな」
出雲さんが小声でそう囁く。
「ええ、そうですね」
今年は五十鈴親衛隊と深く関われそうだ。




