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10 電話とサボり①




 今日は土曜の休日。

 僕は自分の部屋のベッドで横になりながら、昨日の出来事を反省していた。


「はぁ」


 どうしてあんなことが起きてしまったのか…落ち度は二つある。


 まず一つは、僕に自信がなかったことだ。友達でいたいと思っておきながら、一般人である僕が高嶺の花である五十鈴さんと友達になっていいのかずっと悩んでいた。度胸があれば男らしく、五十鈴さんに友達宣言できたのに。


 二つ目は、僕が周囲の噂を思っていたより気にしていたことだ。他人から従者だの下僕だの言われていたのが堪えていたらしい…だからせめて、五十鈴さんだけは否定してほしかった。だからあんな試すような発言をしてしまった。


 そうやって一人でうじうじと悩んでいたから、五十鈴さんを泣かせてしまった。


(でも…分不相応なことは否定できないんだよね)


 西木野さんの協力もあって、五十鈴さんは少しずつだけど前向きになっている。高等部に上がる頃にはたくさんの友達に囲まれ、充実した学校生活を送れるようになっているはずだ。


 その時、僕は五十鈴さんの隣に居られるだろうか?


 …やっぱりどう考えても相応しくない。


 PiPiPi


「…?」


 スマホが鳴ってる。

 誰からだろう…僕に電話をかけてくる人は、家族か幼馴染くらいだけど。


「もしもし」


『……も、もしもし』


「…五十鈴さん?」


『はい……』


「………」


『……』


「五十鈴さん!?」


 五十鈴さんからの電話!?

 僕は体を起こして、ベッドの上で正座する。


「ど、どうしたんですか!?」


『その……九番目の、やりたいこと……』


「やりたいこと?」


 …そういえば五十鈴さんのやりたいことノートの中に“自分から友達に電話をかける。”って書いてあったっけ。スマホで連絡先を交換したから、挑戦可能になっていたんだ。


 でもなんで僕に電話を?


 この前、僕のせいで気まずくなったばかりだぞ。西木野さんの方がもっと気安く電話できるだろうに。


『それと……昨日はごめんなさい』


 すると五十鈴さんは急に謝罪してきた。


「どうして五十鈴さんが謝るんですか?悪いのは僕で…」


『ううん、違うの……実は不安だったの。園田くんを友達だと思っていいのか……』


 五十鈴さんは静かに語り始める。


『園田くんはずっと側にいてくれて、すごく頼もしかったけど……それって対等な友達と呼べないんじゃないかって。優しい園田くんはただ、同情して仕方なく一緒にいるんじゃないかって……自信がなかったの』


「…」


 僕は言葉を返せなかった。


『それで……西木野さんに言われて、友達でいたいと思ったからノートに印をしたの。でもそのせいで……私のことを友達だと思ってくれていた園田くんを誤解させちゃったんだって、今になって分かった……』


 …そうか。

 迷っていたのは僕だけじゃなかったんだ。


 五十鈴さんが病院生活というハンデを周囲に隠したがっていたのは、同情や哀れみで関係を作りたくなかったからだ。

 でも僕と出会ったのは病院の中だし、五十鈴さんが抱えている不安も大方知っている。だから僕のことを友達だと思っていいのか迷っていたんだ。


「あの、実は…」


 僕も自分の胸の内を明かそうと決めた。

 本当に悪いのは、僕に意気地がなかったからだ。





「…そういうことで、僕も五十鈴さんを友達として見ていいか不安だったんです」


『私と……同じ?』


「はい、同じですね」


 僕と五十鈴さんは似たような悩みを抱えていた。お互いに友達だと伝えられず、気持ちがすれ違ってしまったんだ。


『……』


「…」


 こうして話し合って誤解は解けたけど、なんて声をかけたらいいか分からなくなってしまった。


「そ、そういえば五十鈴さん。やりたいことノートの一ページ目、未達成は残り一つですよね」


 言葉が見つからなかったから、つい話題を変えてしまった。


『う、うん……学校をサボるの……』


 最後の“授業をサボってみたい。”を達成すれば一ページ目はコンプリートだ。ノートの十分の一を達成できれば、五十鈴さんにとって大きな自信になる。


「いつ実行するんですか?」


『うーん……まだ決めてない』


「じゃあ学校をサボって、どんなことがしたいんですか?」


『それもまだ決めてない……』


「…」


 今までのやりたいことには明確な目的があったのに、最後の項目は五十鈴さんがどうしたいのか曖昧だな。そもそも学校生活の一日一日を大事にしたい五十鈴さんが、学校をサボりたいなんて違和感がある。


 これって本当にやりたいと思って書いたことなのかな?


「どうしてサボりたいって書いたんです?」


『その……授業をサボるのも青春の楽しみ方だって、一緒に書いてくれた人が言ってたから……』


「一緒にノートを書いてくれた人がいたんですか」


『うん……病院の、先輩に……』


 あのノート、五十鈴さん一人で書いたわけじゃないんだ。どんな人と一緒に書いたのか気になるけど、話が脱線するから後回しにしよう。


 うーん…サボることの青春って何だろう?

 

「お兄ちゃーん、漫画貸して~」


 そうこう悩んでいると僕の部屋の扉が開く。

 事故で片足を痛めた妹が、残る片足でぴょんぴょん跳びながらやってきた。


「…電話中だぞ、それとノックしろ」


「怪我人なんだから許して」


「怪我人なら松葉杖をちゃんと使え」


「めんどいんだもん」


 そう言って妹は部屋の本棚を物色している。


 僕の部屋の本棚には少年漫画、妹の部屋の本棚には少女漫画が収められていて、こうしてよく漫画の貸し借りをしている。

 もっとも僕は少女漫画をほとんど読まないけどね。


 …せっかくだし妹の意見を聞いてみようかな。


「なぁ、ちょっと聞いていい?」


「なーに?」


「学校をサボるって青春だと思うか?」


「…藪からスティックな質問だね」


 妹は本棚に寄り掛かりながら腕を組んで考える。


「そうだね……相手がいればかな」


「相手?」


「友達と学校をサボってお出掛け。二人で悪いことをしている罪悪感と非日常感を共有して、そのスリルとドキドキを楽しむんだよ」


「へぇ…」


 友達と一緒に少し悪いことをする、それもまた青春だ。


「相手が異性なら、その恋が進展すること間違いなしだよ」


「え?」


「二人だけの愛の逃避行。親や補導員の目を掻い潜って二人だけの空間を探し求め、辿り着いた場所であんなことやこんなこと…」


「もういいもういい!」


 通話中になってるんだから変なこと言うな! 

 中学生の分際でませたことを…


「ところで誰と電話してんの?昴ちゃん?隼人くん?」


「いいから漫画持って立ち去れ」


「ちぇー相談に乗ってあげたのに」


「気を付けて歩けよ」


「はーい」


 妹は漫画を抱え、片足歩きで部屋を後にする。


「すみません、妹が乱入してきて」


 今の会話、五十鈴さんに全部聞かれてたかな。

 通話切っておけばよかった…


『ううん……それで、サボることだけど……』


「はい」


『その……えっと……』


 五十鈴さんは躊躇いながら、こう続けた。


『園田くん……次の月曜日、一緒に学校サボらない……?』

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