14 五十鈴親衛隊
五十鈴親衛隊の一日は早い。
部隊はまず五十鈴さんより早く登校して下駄箱を監視する。もし手紙を入れようものなら即処分、靴を盗む変態には地獄のような罰を与えなければならない。
別動隊は五十鈴さんの通学路を監視。情報部から不審者や他校の情報を集め、五十鈴さんに近寄ろうとする輩は事前に処理している。
これだけ外部の人間を警戒しているのだから、身近な人間も入念にチェックしている。クラスメイト一人一人の個人情報から一日の行動。僅かでもあった五十鈴さんとのやり取りも見逃さない。傍から見て仲の良さそうな友人にも警戒を怠らない。
そして五十鈴さん本人の監視こそが最も重要だ。
早朝寝起きでとろんとした瞳。
制服を華麗に着こなす凛とした佇まい。
体育の授業で活躍する可憐な肢体。
勉強に励む真面目な姿勢。
初対面の人に見せる仏頂面。
友達の前で見せるあどけない笑顔。
園田くんの前だけ見せる気の抜けた表情。
永遠に眺めても飽きることはない。
…要するに五十鈴親衛隊のメンバーは五十鈴さんが大好きなのだ。
※
「というのが五十鈴親衛隊の活動だ」
「…」
今日は珍しく僕と出雲さんの二人きりで昼食を取っている。
急に日ノ国さんと五十鈴さんが学校の食堂を利用したいと言って、他のメンバーを引き連れて食事に行ってしまった。僕と出雲さんはお弁当を持参していたから教室で食事をしている。
「親衛隊のメンバーはみんな五十鈴さんに魅了されてるんですね」
「当然だ」
「気持ちは分かりますけど」
僕はずっと五十鈴さんの側にいるけど、今でも不意に見せる無防備な姿にドキドキしてしまう。学年も上がって色々と成長してるし…
「正直、園田が羨ましい」
出雲さんから嫉妬の目が向けられる。
「…親衛隊はやっぱり僕を警戒してますよね」
前にプールへ行った時も同じ質問をした記憶があるけど、会話の内容はよく覚えてないから改めて聞いてみよう。
「園田は組織にとって特別な存在だ」
「特別ですか…」
「五十鈴殿には達成しなければならない目的があって、成就の鍵となるのが園田の存在だとリーダーから聞かされている」
「…」
親衛隊のリーダー…何者なんだろう。
恐らくだけどそのリーダーは五十鈴さんの事情を知っている。やりたいことノートのことも、僕が協力関係にあることも把握しているはずだ。
どうしてそこまで詳しいのか、思い当たる人物は一人だけいる。
「その親衛隊のリーダーは“アメ”って名前じゃないですか?」
単刀直入に尋ねてみた。
五十鈴さんと一緒にやりたいことノートを作ったアメ先輩。その人が親衛隊を動かして、あらゆる危険から五十鈴さんを護ってくれているのだと想像できる。
「いや、リーダーの名前は長門菊という。どう捻ってもアメとは呼べないだろう」
「そうですねぇ」
うーん…そもそもアメ先輩が華岡学園の在校生なら、とっくに僕と五十鈴さんの前に姿を現しているか。となるとその長門菊とアメ先輩に繋がりがあるのか。
それともただの偶然で思い過ごしなのか…
「…因みに同学年にも五十鈴親衛隊っているんですか?」
親衛隊の正体については取りあえず置いておこう。
それより気になるのは同年代の親衛隊メンバーだ。変な噂で向こうから話しかけに来れないなら、こちらから接触を試みればいい。
「ああ、少なくとも二十人はいる」
「けっこういますね」
「うちのクラスにも私を含めて四人いる」
「へぇ………え!?」
その情報は衝撃だぞ。
「今は食堂に行っているようだがな」
出雲さんは軽く教室を見回す。
「同じクラスになれたなら会話すればいいじゃないですか」
「いや…同僚というだけで、気軽に話せるような間柄ではない」
「…」
気持ちは察するけど内気すぎる!
とはいえこのチャンスを無視するわけにはいかない。
「出雲さん。その親衛隊のクラスメイト、放課後になったら集めてみてください」
そうと分かれば少し大胆に行動してみよう。




