表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/161

13 消された願い




 担任の先生に進路調査書を見せてもらえないかと交渉したら、クラスの雰囲気改善のためならとあっさり僕らに預けてくれた。


「このことは秘密にしておいてくれ」


 条件として守秘義務を負うことになったけど当然の判断だ。同級生に自分の進路を晒されるのは、人によって嫌だろうから。


 そして次の日の放課後、再び芸術室に集まって調査書と向き合った。


「それでは始めますか」


「なんだか悪いことしてるみたい……」


「手段はアレですけど、クラスをまとめるためです」


「そうだね……」


 取りあえず僕が男子、五十鈴さんが女子の進路調査を確認することにした。


「じゃあ失礼して…中身を拝見しましょう」


「うん……!」



 


 流石は華岡の天才というべきか、九割の生徒は明確な進路を定めていた。そして何というか…やはり今の状況になるのも頷ける個性の生徒ばかりだった。


 陶芸家、書道家、彫刻家などの芸術家。イラストレーター、ウェブデザインなどのIT系。弓道、フェンシング、スケートなどのソロスポーツ関連。


 団体行動ではなく一人で黙々と仕事をするような職業ばかり。そりゃこんな人種で集まれば、誰も喋らないクラスになる。


「園田くん、これ……」


「はい?」


 五十鈴さんは一枚の調査書を見せてくれた。


「えっと…筒紙撫子さん。進路はデザイナーとアーティストですね」


「デザイナーとアーティストって……?」


「前に杉咲先生が言ってたんですけど、依頼されたものを作るのがデザイナーで、個人で創作する人をアーティストと呼ぶんです」


 つまり筒紙さんは何らかの芸術家の天才ということだ。僕らなんかよりもずっと、芸術室と美術部がお似合いの人だ。


「……」


 五十鈴さんは鉛筆を取り出して、第三希望の空白を黒く塗り潰した。




“未完成の絵画を見つける”




 すると文字が現れた。


「やっぱり……書いて消した文字があったんだ」


 いくら鉛筆で書いたものを消しても跡が残る。その上に鉛筆で黒く塗りつぶすと、消し跡が白い文字となって浮かび上がるんだ。


「そういえば僕の手紙にも同じことしてましたね」


「うん、気になっちゃう……」


「まるで探偵ですね」


「えへへ……」


 五十鈴さんは嬉しそうだ。

 はい、可愛い。


「それにしても“未完成の絵画を見つける”ってどういうことですかね?」


「うーん……」


 五十鈴さんは顎に手を当てて考える。


「この学校の何処かに未完成の絵があって、それを探してるんだと思う……」


「未完成の絵ですか…いかにもここにありそうな代物ですね」


 僕は芸術室の奥深くを覗き込んでみる。

 正直、未開の奥地は埃まみれだから近づきたくない。


「これって話題にできるかな……」


「それはやめた方がいいですね」


「どうして……?」


「だって進路希望調査に書いて消した内容ですよ。それを僕たちが知ってるなんて、向こうは不審に思うでしょう」


「……そうかも」


 間違ってもこの情報を会話のネタにしてはいけない。もしかしたら相手にだって、おいそれと他人に話せない事情があるのかも。


「この部屋にあるかな、かきかけの作品……」


「どうでしょうねぇ」


 たまたま近くにあった小さな絵画を手に取る。

 完成された素晴らしい作品に見えるのは素人の目だからであって、天才の目から見たら未完成なのかもしれない。


「名前は裏に“ユキ”と書いてあります」


「誰だろう……」


「さぁ…でも筒紙さんが探している絵画は、この芸術室に隠されているかもしれません」


「整理する時は意識して探してみよう……!」


 五十鈴さんは探す気満々だけど、この部屋の整理整頓は終わりのない作業。仮に探し出したとしても渡すシチュエーションを作るのも一苦労だ。


 とにかく筒紙さんの事情は置いておいて、色々な収穫を得ることができた。この情報は今月の学校行事である球技大会で使えるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ