12 二人だけの芸術室
この一ヶ月で新しい五十鈴さんグループの仲は急激に深まった。
日ノ国さんとは一緒に登下校できるようになり、朽木さんとはお昼休みにキャッチボールをしたり、出雲さんも何だかんだ付き合ってくれる。
僕たち男子組も一枝くんが野球部ということで、お昼休みに外で遊ぶことが増えた。といってもソフトボール部である朽木さんとの対決を見物するのがほとんどだけど。
五十鈴さんグループの関係はとても良好。
ただ…それ以外は相変わらずだ。
他のクラスメイトはグループどころかペアすら作れていない。ここまで内気な生徒が密集したクラスは初めて見るぞ。
学級委員としてこの事態をどうにかしたい。
「ということで作戦会議をしましょう」
「うん……」
放課後、僕と五十鈴さんは久しぶりに芸術室の扉を開いた。最近は日ノ国さんがみんなと寄り道したがるから、なかなか美術部で集まれなくなった。
「今日は杉咲先生いないんですね」
奥の仕事場を覗いても先生の姿は見当たらない。
「一年の頃は先生が鍵を管理してたけど、もう二人なら大丈夫だって託された……」
「そうなんですか」
二人なら大丈夫か…多分だけど杉咲先生は最初、男である僕を警戒していたはずだ。でも鍵を預けてくれたってことは信用されたのかな。
つまり芸術室は正式に二人だけの空間となった。
「それと顔を出す頻度も少なくなるって……」
「じゃあ集まる時は二人きりですね」
「う、うん……」
「…」
…あれ?
何だろう、この妙な空気。
二人きりになるなんて前までは珍しいことじゃなかったのに、久しぶりだからか落ち着かない気持ちになる。
「……」
僕から目を逸らす五十鈴さんの頬が赤くなっているのは夕日のせい?それに何故か戸惑った表情を浮かべている。
………
……
…
ダメだ、とにかく話を進めよう。
「く…クラスの雰囲気を改善させる方法ですけど、一つだけ思いついたことがあります」
「ど、どんな方法……?」
「これは担任の先生に交渉しないとですけど、前にやった進路調査の紙を借りるんです」
「調査の紙を……」
「確認すればクラスメイト一人一人の個性を知ることができます」
「なるほど……」
華岡学園は特質した天才を集めた学校だから、内気だとしても個性的な才能があって進路もほぼ決まっているはず。それを知ることができれば行事の時に頼りになる。
「でも見せてもらえるのかな……」
五十鈴さんが不安に思う通り、この作戦はプライバシーが関わる。
「先生もきっと協力してくれますよ」
実は前から担任の先生とはちょこちょこ話し合っているから、きっと前向きに検討してくれるはず。
「そういえば、園田くんはなんて書いたの……?」
「え?」
「今後の進路……」
五十鈴さんは僕の進路が気になるようだ。
「恥ずかしながら未定です」
天才と違って僕には才能というものがまるでないから、将来の夢なんて漠然としている。サラリーマンでいいかな~くらいの浅はかさだ。
「五十鈴さんはなんて書きました?」
「えっとね、病院で働きたいと思ってる……」
「へぇ~」
長い入院生活で辛い目に遭ったからこそなのかな。こんな美少女のナースがいてくれたら、入院している患者も嬉しいだろう。
「それとやっぱり、やりたいことノートを完成させたい……!」
五十鈴さんは机に置いていたノートを握りしめる。
「あはは…そういった職業に関係ないことも、調査用紙に書いてくれればいいんですけどね」
今回の作戦で得られる成果はあまり期待できない。行動力のない僕らの発想では、これくらいしか思いつかないってだけだ。
本当に僕たちだけでクラスの空気を変えられるのかな…




