10 占い師と親衛隊
学園祭の日。
筒紙さんのクラスは出し物をやらないので、姉の手がかりを探しに大学部の校舎を探索した。芸術品を展示するお祭りなら手がかりが得られると思ったからだ。
もちろん友達はいないので一人で来ている。
(…高校の出し物より閑散としてる)
意外なことに大学部の学園祭はこじんまりとしていた。中等部や高等部のような派手な装飾がなく、飲食店などの出店は一つもない。
(作品の展示場も人が少ない)
頼みの綱だった文芸部の作品展示エリアは、客はいても大学生の姿はあまり見られない。それでも筒紙さんは僅かな可能性を信じて展示エリアをくまなく歩きまわった。
※
全ての展示エリアを確認したが、やはり姉の作品は見つけられなかった。
「はぁ…」
筒紙さんは中庭の自販機で買ったミルクティーを口に含んでため息を溢す。
(もうどうでもよくなってきた)
この状況に筒紙さんは嫌気がさしてきた。どうして好きでもない姉のために高校入学までして、時間を割いて未完成の絵を探しているのか。
(もう諦めようかな…)
また創作意欲を失いそうになる筒紙さん。
「そこのお嬢さんや~」
「!?」
突然、背後から声をかけられた。
中庭の木の下に紫色のフードを被った、見るからに怪しい女性が手招きしている。そこには小さなテントが設置されており、看板には“占い屋さん”と書かれていた。
どうやら出し物をやっているようだ。
「ちょっと占わせてはくれないかね」
「…どうしてです?」
「何やら君の背後に得体の知れない気配を感じるので、少々気になってなぁ」
「…」
筒紙さんは基本的にオカルトは信じない。
占いなんてものはただの遊びで、姉の霊が憑いているなんて本気で信じてはいない。だが事情を知らないはずの他人からそんなことを言われたら寒気を感じてしまう。
「じゃあ少しだけ」
半信半疑のまま筒紙さんは占い屋さんの元に向かう。
自分から話しに行けないコミュ症に、やっと誰かが声をかけてくれた。相手が胡散臭くてもこのチャンスを逃す手はない。
「どれどれ…」
占い師は目の前の水晶を手に取る。
「…ほう、姉の残した作品を完成させたいとな」
「どうしてそのことを…!?」
「占い師に対してその問は愚門だのう」
「…」
どうやら相手はただの占い師ではないようだ。天才を集める華岡学園…それならば占いの天才がいても不思議ではない。
「姉の最後の願いを叶えたいとは、素晴らしい姉妹愛だのう」
「…」
姉妹愛についてはノーコメント。
「学園に残された“かきかけの作品”を探していると?」
「は、はい。それは、どこにあるのでしょう」
筒紙さんは頑張って慣れない会話を試みる。
「残念ながら分からぬ…私はしがない占い師だからな」
「そうですか…」
「私がしてあげられることは未来を占うことだけ」
そう言って水晶を通して筒紙さんの運命を覗いた。
「今年一年の運勢は最悪、進展はしないだろう」
「…」
まったくその通りなので返す言葉が出てこなかった。
「だが来年、お嬢さんの物語は大きく動き始める」
「来年…」
「進学したらまず友達を作ることだ。何をするにも仲間の力が必要…それはこの一年で思い知ったのではないか?」
「…」
これまた筒紙さんは否定できない。
誰かに頼ろうにも今のクラスメイトとの交流はもう不可能。クラス替えで関係をリセットさせて、新しいクラスで友達を作れば停滞した現状を変えられるかもしれない。
全ては来年の二年生生活から始まる。
※
筒紙さんが立ち去った後、占い師の元に一人の女性が現れた。
「アイリス」
「おや、菊ちゃんお疲れさま」
菊と呼ばれた大学部の女性は、占い師アイリスの隣に腰を下ろす。
「占い通りユキの妹には会えたのか?」
「うむ。ユキちゃんの言った通り、内気な妹ちゃんだった」
「これでアイリスはようやくユキに託された願いを実行できるな」
「ふふ…がんばるぞい」
アイリスは両手の拳を握って意気込む。
「それで菊ちゃんは、アメちゃんに託された子はどうかね?」
「…五十鈴親衛隊のメンバーがやる気でな、五十鈴蘭子に悪い虫が付かないよう目を光らせている。組織の人数も100を超えた」
「蘭子ちゃん、可愛いからね~」
「慣れないことをさせられて苦労する」
菊は疲れたように息を吐く。
「お互いに大変なものを託されたのう」
「まったくだ…やれやれ」
煩わしいような口振りで話す二人だが、その表情と声音はどこか楽しそうに見えた。




