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9 筒紙さんの探索




 こうして始まった筒紙さんの高校生活。


(中卒で就職するつもりだったんだけどね…)


 絵画の天才である筒紙さんの進路は既に決まっていた。

 両親も有名な芸術家なので就職先の選択肢はいくらでも用意されていた。むしろ中学を卒業したら活躍してもらうはずだったので、高校入学を決めたことには多くの大人が驚いた。


(学校生活は苦手だけど、目的は決まっている)


 そして学生になったのは勉強をするためでも、ましてや青春を謳歌するためでもない。姉が残した“かきかけの作品”を見つけて完成させることだ。


 どのような作品で何処に保管されているかも分からない状況だが、何かしらの絵画であることは想像できる。広大な敷地を誇る華岡学園でそれを探し出すのは容易ではない。


「筒紙さん、一緒にお昼ごはん食べない?」


「すみません…用事があるので」


 筒紙さんは休み時間や放課後を利用して姉の作品を探し回った。


(私はお気楽な学生とは違うんだ)


 自分にそう言い聞かせて孤独の道を歩んだ。


 美術室とデッサン室や、受賞した作品の展示部屋。とにかく絵画が置いてありそうな施設をしらみつぶしに歩き回った。


(姉の作品…やっぱり飾られてる)


 芸術家の天才である姉の完成された芸術品は数多く展示されていた。だがやはり未完成で展示されているものは、ただの一つとして見つけられなかった。


(やっぱり探すべきは姉のアトリエだ)


 作品を手掛ける姉の作業場は、自宅以外にも学園のどこかに必ずあるはずだ。だがそれを見つけ出すにはヒントが少なすぎる。


(でもなんで姉は制作を中断したんだろう?一度作品を作り出したら、不眠不休で完成までもっていくはずなのに)


 完全無欠の姉が残した未完成の作品。

 腑に落ちない点は他にもある。


(手紙には学校に残したって書いてあるけど、入院中に描いたのかもしれない。病院や自宅もよく調べる必要がある)


 そうやってずっと一人で探索をしていたが、半年が過ぎても成果は得られなかった。





 自分なりの探索を続けても手がかりすら掴めない。そもそも一人だけで見つけ出そうとすること自体が現実的ではなかった。


(…やっぱり姉のクラスメイトに話を聞くしかないのかな)


 姉は三つ年上なので、もし生きていたら大学部の一年生。つまりまだ在籍している姉のクラスメイトに話を聞けば有力な情報が得られる。

 それにあれだけの芸術作品で賞を総なめにしていたのなら、文系の部活にもその名を轟かせているはずだ。


(………)


 しかし、筒紙さんは上級生と話せるほどのコミュ力はなかった。


(同年代ならまだ話せるけど、もうクラスの輪は出来上がってる)


 クラスメイトや友達の力を借りるという手段も、コミュニケーションを疎かにしたせいで取れなくなってしまった。


“一人で引き籠っても捗らないわよ”


 姉の言葉が脳裏を過る。


「…背後に憑いてるなら何処にあるか教えてよ」


 後ろを振り返っても姉からの返事はない。

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