7 新しい男子組
女子組は噴水広場で食事をするらしいから、僕たち男子組は教室に残って食事をすることになった。
「まさか園田に助けられる日が来るとはな」
田中くん…だと紛らわしいから一枝くんと呼ぼう。
一枝くんは五つのパンの中から焼きそばパンの袋を開ける。流石は体育会系、食べる量が僕の二倍はあるぞ。
「友達ゼロスタートがこんなに辛いとは思わなかった…」
「災難だったねぇ」
僕は経験したことないけど、知り合いの居ない教室は寂しくて孤独だろう。それはまだ孤立してるクラスメイトのみんなだって同じはず。
「二郎と三成は俺のことボッチだと煽ってきたから、五十鈴さんグループに関われたことを自慢してやったぜ」
「へぇ~」
憎まれ口を言いつつも一枝くんは楽しそうだ。
本当に仲いいんだな、田中三人組。
「一枝くんは確か野球部だったよね」
すると一緒に食事をしていた城井くんがそう尋ねる。
「へぇ~じゃあ野球の天才なんだ」
「ふ、まあな」
「それじゃあ試合は負けなし、将来はプロ野球選手になることが約束されてるね」
華岡はあらゆる天才を集めた学校だから、きっと野球部なんて甲子園常連の強豪校のはず。
「そんな甘い世界じゃないぞ」
でも一枝くんはきっぱりと言い切る。
「ちょっとしたミスで試合に負けることもあるし、そこからプロ入りのチャンスを逃した先輩は大勢いる。才能があっても開花できず生存競争から追い出された奴もいたぞ」
「なるほど…」
天才同士で競い合う中、慢心して気を抜いているとスポーツの世界では生きていけない。やっぱり本気でプロを目指す運動部は過酷だ。
美術部でだらだらしてる僕とはえらい違い。
「つっても甲子園には毎年出場してるし、練習試合でもスカウトが見学に来るからチャンスはかなり多いぞ」
一枝くんは得意げにそう説明する。
「みんなすごすぎて同世代とは思えないよ」
改めて思うけど華岡の天才は本当にすごい。どうして平凡な僕が入学できたのか、答えは永久に謎のままかもしれない。
「俺からしたらお前の方がすごいよ」
「え?」
「五十鈴さんやあの日ノ国…それに出雲なんかと平気な面してお喋りしてるんだから」
それは才能とかじゃなくて巡り合わせなんだけど…
「園田くん、自分が周囲からどんな噂されてるか知らないでしょ」
話を聞いていた城井くんがそう囁く。
「確か五十鈴さんの従者だっけ?」
「最初の頃はね。でも女子に囲まれる姿が度々目撃されて、実はハーレムの天才じゃないかって噂だよ」
「ないない、そんなのじゃないよ」
「五十鈴さんグループと食事したり、遊びに行ったり、自分の家に招き入れて一晩明かしたとか…」
「………」
それは紛れもない事実ではある。
「ハーレムの天才か…羨ましすぎる!こちとらずっと汗臭い男の世界で生きてきたから、女子と会話することすらおぼつかないのにっ」
一枝くんはそんな愚痴を言ってる。
「こんな平凡な僕にハーレムの素質なんてないよ」
一年生の頃は五十鈴さんグループの女子たちに振り回されるばかりで、そんな甘酸っぱい空気にはならなかった。
そもそも恋愛なんて無縁すぎて想像もできない。
「ふーん…話は変わるけど園田は部活とかやってないのか?」
「美術部をやってる」
「ちぇ、文系男子か」
「でもあの速川昴の遊び相手をしていた時期もあるから、運動神経にはちょっと自信あるよ」
「ほう?なら昼休み、キャッチボールにでも付き合えよ」
そう言って一枝くんは嬉しそうに二つ目のパンを手に取る。
何というか…ずっと女子に囲まれていたせいで、すごく久しぶりに男子の会話をしたような気がする。やっぱりこっちの方が落ち着くな。
(美術部…そんなのあったっけ?)
城井くんは何やら考え込んでいるけど、そういえば相談したいことがあったんだ。
「ねぇ城井くん」
僕は声のボリュームを落として話し始める。
「日ノ国さんみたいにさ、他の生徒の噂話ってないの?」
「うちのクラスメイトの噂?」
「そうそう。きっとみんな個性的な才能の持ち主だろうから、それさえ分かれば話しかける機会を作れるかもしれない」
特質した趣味を持っているなら、そこを利用すればきっと距離を縮められるはず。クラスの輪を作るにはまずは情報収集からだ。
「不本意でもクラス委員になったからにはクラスをまとめたいんだ」
「なるほど…全員は把握してないけど、面白い噂のある生徒がいるよ」
城井くんは小さなメモ帳を取り出した。




