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6 新しい女子組




 新しい友達が増えた翌日。

 本日は折角ならばと男子女子に分かれて昼食をとることにした。


「一年の頃、よくここで食事してたんだ……」


 五十鈴さんたちは華岡学園の憩いの場、噴水のある広場のベンチに集まっている。季節は春なのでポカポカとした陽気だ。


「あれが噂の美少女か…」

「まさに100年に一人の美女だ」

「一緒にいる人たちも妙に威厳を感じるな」


 そして五十鈴さんの存在は新一年生から在校生まで多くの視線を集めることになる。高身長の出雲さんと凛とした日ノ国さんが一緒なので、この空間だけ別世界のように見える。


「…」


 そんな周囲の視線も気にせず日ノ国さんは静かに空を見上げていた。


「考えてみれば屋根のない場所で食事をするのは生まれて初めてだ」


「え、どうして……?」


「見ての通り私は人を楽しませる才能に恵まれなかったから、こういった交流の機会もなかった。名家の娘であることも知れ渡った環境で育ったからな」


「……」


 ここで五十鈴さんは小さなシンパシーを感じた。


「その境遇には共感できます」


 出雲さんは丁寧な口調で話し始める。


「私は外見のせいで一般的な日常に溶け込むのが苦手でした」


「そうなんだ……」


 似たような名家に生まれた出雲さんと日ノ国さんは、似たような悩みを抱えていた。そして五十鈴さんは経緯は違っていても周囲に溶け込めない辛さは理解できた。


「何というか…堅苦しい集まりね」


 そんな会話を聞いていた朽木さんが容赦のない感想を述べる。


「家訓がどうとか一般がどうとか考えないで、やりたいことのために全力で努力すればいいのよ!」


「…」

「…」


 朽木さんの真っ直ぐな言葉に日ノ国さんと出雲さんは押し黙る。


「まぁ…クラスの暗い雰囲気に押しつぶされてた私が言っても説得力ないけどさ」


 そう言いながらお手製のおにぎりを頬張る。




「私はみんなとやりたいことがいっぱいある……!」




 ここで五十鈴さんは小声ながらも声を張り上げた。


「へぇ、この中だと五十鈴が一番積極的ね」


 朽木さんは意外に思っただろう。

 一年の頃はずっと内気だった五十鈴さんは、行動力のある友達から様々なことを学んで成長した。今なら日ノ国さんや出雲さんよりも行動的になれる。


「日ノ国さんはこのメンバーでやりたいことはある……?」


「…」


 五十鈴さんに問われた日ノ国さんは食事を中断して考える。


「放課後、みんなと寄り道がしてみたい」


 少し考えただけでやりたいことはすぐ出てきた。


「あら、それなら簡単じゃない」


 朽木さんは拍子抜けといった反応だ。


「だが放課後になると、迎えの車が来てしまうのだ」


「そんなの断ればいいじゃん」


「しかし…」


「家庭の事情だから無理にとは言わないけどさ、諦めないで努力しないとダメよ」


「…」


 朽木さんの言葉で日ノ国さんは“努力”について考え直すきっかけになっただろう。


「出雲さんは一年の頃、あまり遊べなかったよね……」


 次に五十鈴さんは出雲さんから感じられる隔壁について指摘してみた。


「夏休みで遊んだ時、楽しくなかった……?」


「そ、そんなことはありません!」


 出雲さんは慌てて否定した。


「夏休みに五十鈴殿たちと過ごした日々は楽しかったです。ですが…堅物の私が邪魔をしているのではないかと不安だったのです」


「邪魔じゃないよ……?」


「は、はい…自身の卑屈さには困ったものです」


 出雲さんは意を決したように五十鈴さんと向き合う。


「五十鈴殿のやりたいことには全部付き合います。もちろんそれは使命感や責任感ではなく、一人の友人として一緒に遊んでいきたいからです」


 五十鈴さんも成長したがそれは出雲さんも同じだった。


(五十鈴殿の笑顔は人類の宝…今年は遠くから見守るのではなく、この私が作り出すのだ!)


 卑屈になって五十鈴さんと距離を置いても、相手を悲しませるだけで友達とは呼べない。これからの出雲さんは積極的に距離を縮めるつもりだ。


「うん……よろしく」


 五十鈴さんは小さな笑みを浮かべてくれた。既に遊んだ経験もある二人なので、壁が無くなれば距離はぐっと近くなる。


「青春してるねぇ」


(羨ましい…)


 そして朽木さんと日ノ国さんの関係はこれから始まる。

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