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9 友達とは?




「どうすれば、友達なのかな……」


 お昼休み、五十鈴さんが唐突にそんなことを呟く。


「…どゆこと?」


 西木野さんが僕と同じ疑問を口にする。


「あの……私は、西木野さんの友達になれてるのかなって……」


「あ~なるほどね」


 納得したように頷く西木野さん。

 僕はよく分からないぞ。


「どういうことです?」


「五十鈴さんは私たちと友達である確証が得たんだよ」


「確証…」


 つまり五十鈴さんは自分が本当に西木野さんの友達になれているのか、自分が勝手に思い込んでいるだけじゃないのかと不安に思っているのか。


 気持ちは分かる…僕も似たような不安を抱えてるし。


「いいんだよ、一方的に友達だと思ってれば」


 西木野さんはあっさりとそう答えた。


「そうなの……?」


「五十鈴さんは勝手に私のことを友達だと思えばいいし、私は勝手に五十鈴さんを友達だと思う。そもそも友達なんて契約みたいに口頭で伝えるもんじゃないし」


「なるほど……」


「私たち友達だよね!とか言ってる奴ほど質が悪いから…」


 嫌な過去でも思い出したのか、西木野さんは虚空を見つめている。


「なら……西木野さんは、私の友達……」


「もちろんよ」


「……!」


 五十鈴さんは無表情だが、嬉しそうにしているのがわかる。


「実は……スマホ、貰った……」


 すると五十鈴さんは鞄からピカピカのスマホを取り出す。


「お、じゃあ連絡先交換しようか」


 西木野さんもスマホを取り出す。


「せっかくだから“にゃいん”グループも作ろう」


「にゃいん……?」


「誰もが利用するチャットアプリのことだよ」


 にゃいん。

 それは猫のシルエットが可愛らしい連絡用アプリだ。男子が使うにはちょっと恥ずかしいデザインだけど、その便利さで老若男女問わず利用されている。


「園田くんもやってんでしょ?」


「もちろんやってますよ」


「それじゃあ五十鈴さんグループ作ろっか」


 グイグイと話を進める西木野さん。

 僕はちゃっかり二人の連絡先をゲットしてしまった。西木野さんのこの行動力、見習わないとな。





 そんなやり取りがあった日の放課後。

 僕と五十鈴さんは学校での成果と今後についてを話し合うため、芸術室に集まっていた。


「園田くん……見て見て」


 五十鈴さんは鞄からノートを取り出し僕に見せてくる。それは入院中に五十鈴さんが書き残した“元気になったらやりたい100のこと”がまとめられたノートだ。


――――――――――――――――――――

1  学校に通う。           ×

2  友達を作る。           ×

3  男の子の友達も作る。

4  輪になって雑談する。       ×

5  友達と一緒に下校する。      ×

6  放課後、友達と寄り道する。    ×

7  学校でお気に入りスポットを作る。 ×

8  友達と連絡先を交換する。     ×

9  自分から友達に電話をかける。

10 授業をサボってみたい。

――――――――――――――――――――


 おお、こうしてみると順調に達成できてるんだな。


「もうすぐ一ページ目がコンプリートできそうですね」


「うん……!」


 最初はどうなることかと思ったけど、五十鈴さんの学校生活は一歩ずつ前に進んでいる。まだ問題は山積みだけど焦らずゆっくり整えていけばいい。


「あ……チェック入れるの忘れてた」


 すると五十鈴さんは思い出したように“男の子の友達も作る。”に印を入れた。


 ………


 それって僕のことかな?


 いや…でもどうだろ。僕と五十鈴さんの関係って、周囲から見ればお嬢様と従者なんだよね。そもそもなんで今日、このタイミングで印を入れたんだろう。入院中の頃から知り合ってたのに…しかも初めての友達は西木野さんらしいし。


 西木野さんはああ言ってたけど…不安な気持ちになる。


 僕は五十鈴さんの友達になれているのだろうか?


「男の子の友達って、いつ作ったんですか?」


 つい口に出して、そう聞いてしまった。


「……」


 五十鈴さんはきょとんとしている。


 ………


 そして、芸術室が気まずい沈黙に包まれた。


「……」


 すると五十鈴さんがポロポロと涙を零し始めた。

 これはやってしまった!


「嘘です冗談です!間違いなく僕のことですよね!?」


 僕は全力で弁解した。


 この五十鈴さんの反応を見て全部わかった。

 五十鈴さんにとって僕は紛れもない友達だ。そしてずっと友達だと思っていた僕があんなことを言ってしまったら、友達関係を否定したも同然。


「……」


 慌てふためく僕を見て、五十鈴さんの涙が止まる。


「園田くんは……友達?」


「はい、間違いなく友達です」


「うん……」


「はい…」


「……」


「…」


 そして再び、芸術室が気まずい沈黙に包まれた。


 どうしてこんなことが起きてしまったのか………理由はどうあれ、僕は五十鈴さんを泣かせてしまった。

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