5 隠れていた知り合い
お昼休み。
基本的に昼食は教室の中で、みんなと一緒にとっている。
「日ノ国さんもいつもお弁当だよね……」
五十鈴さんは隣の席の日ノ国さんに声をかけるようになった。
「ここにいてお邪魔ではないだろうか」
「一緒に食べよう……」
「うむ」
日ノ国さんはいつも教室で食事をとっていて、席も近いから誘ったところで普段と何も変わらない。でもちょっと打ち解けたような気がするな。
「そういえば出雲さんと日ノ国さんのお弁当って似てますね」
折角だから話題を振ってみよう。
「我々の両親は仲がいいからな」
「ん…作ったお弁当の写真をにゃいんで見せ合っているらしい」
日ノ国さんと出雲さんが淡々と語り合っている。名家と呼ばれているらしいけど、意外と庶民的な趣味してるんだな。
「この三人が揃うとなかなか絵になるよね」
すると空いている右隣の席に座っていた城井くんが小声でそう呟く。
超絶美少女でハーフの五十鈴さん。
高身長で勇ましい出雲さん。
凛とした佇まいの日ノ国さん。
「確かに傍から見たら上流階級の集まりみたいだね」
最初の頃よりも近寄りがたいグループになっちゃったけど…そんなことが関係ないと思えるくらい、今年のクラスメイトは内気だ。
「お昼休みになるとうちのクラスって大半は外に出ますよね」
僕はコンビニのサンドイッチを頬張りながら、人が居ても居なくても静かな教室を見回す。
「独りぼっち…お昼ごはん…はっ」
城井くんは何かを察している。
「それ以上はよせ」
そして何故か出雲さんが辛そうにつっこむ。
でも一人で食事をしている人や、読書をしている人がちらほら教室に残っている。この中に一人くらい友好的な生徒が混じってないかな。
「…」
あれ?
何やらそわそわとこちらの様子を窺う人を発見。
「あ、確か…朽木さんですよね」
僕はその後ろ姿に声をかけた。
何故なら相手は多少だけど面識がある生徒だったからだ。
「ひ、久しぶりじゃない。体育祭での対決以来ね」
朽木さんは声をかけるとすぐこちらに駆け寄ってくる。
この人の名前は朽木明日香さんだ。
一年の頃はクラスが違っていたんだけど、朽木さんは僕の幼馴染の昴をライバルとして敵対していた。そんな戦いに五十鈴さんが巻き込まれてリレー対決をする羽目になって、結果は同着となった。
「今年こそはまとめて負かしてやろうと思っていたのに、同じクラスになるなんてね!」
話しているうちに普段通り強気で元気な口調になっている。
「僕たちに気付いていたなら、声をかけてくれても良かったのに」
「この静まり返った状況で出来る訳ないでしょ!」
こんなに活発なのに意外と繊細なんだな。
「知人か?」
「うん、体育祭で一緒に走った仲……」
「去年の対決は盛り上がっていたな」
五十鈴さんも朽木さんのことを覚えていたようだ。
「今年は一緒に速川さんを倒そう……」
「あら、話が早いじゃない」
五十鈴さんの誘いを聞いて朽木さんの瞳が燃え上がる。
「今年の体育祭こそは宿敵、速川昴を一緒に倒すわよ!」
「うん……!」
え…今年もまたリレーやるの?
それにしても以外とすぐ新しい友達が増えたな。
「へい、園田くん」
すると城井くんに袖を引っ張られる。
「どうしたの?」
「もう一人、迷える子羊を見つけたよ」
その背後にいる人も見覚えのある人物だった。
「田中一枝くんだよね。一年で同じクラスだった」
「…俺を覚えていたのか」
この良い体格の男子は田中一枝くんだ。いつも田中という同じ苗字の三人組で仲良くしていたけど、見たところ今年は離れ離れになってしまったようだ。
「二郎と三成は別クラスで同じ組。俺だけ孤立してしまったわけだ」
「だったらすぐ僕らに声をかけてくれれば…」
「クラスの空気が重すぎて無理すぎた」
この教室の暗い空気は体育会系でも気圧されるんだな。多分だけど朽木さんの勢いに乗って、思い切って城井くんに声をかけたのだろう。
「それに…一年の頃、園田にはいろいろ言っただろ…」
「いろいろ?」
「五十鈴さんと仲がいい男子だからっていろいろ…」
「…何かあったっけ?」
五十鈴さんの隣に居座ると様々な人に嫉妬されるから、一枝くんからされた事なんて何も覚えてないぞ。
「それより男子組のメンバーが増えてよかったよ」
「そ、そうか…!ならよろしく頼む」
なんだ、やっぱりいるじゃないか。
友達と楽しい学校生活を送りたい人が。
この調子で五十鈴さんの輪を広げられればいいんだけど、この人数じゃまだクラス全体の暗い雰囲気をどうにかすることは出来ない。
今後も学校行事とか色々あるから焦ることはないか。




