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3 沈黙の教室




 二年生生活が始まって一週間が経過した。

 もう結論を出そう…今年は陰のクラスだ。


 数日経ってもグループになって会話をしている生徒は僕らだけ。休憩時間になると慌ただしく教室を出る人、読書をする人、寝ているかのように顔を伏せる人…とにかく教室の雰囲気は暗かった。


「えーっと…クラス委員を引き受けてくれる人いないかな~?」


 そんなクラスでの委員会決めの日。

 担任の先生も暗すぎる空気に困っていた。


「じ、じゃあ去年にクラス委員をしてた子はいるかな?」


 …こうなることは薄々と分かっていた。


「はい、僕です」

「私もです……」

「副委員をやらせてください」


 僕、五十鈴さん、出雲さんは渋々と手を挙げた。今年は楽な委員会を選んでのんびりしたかったけど、こんな状況じゃ仕方ないか…





 とある日の放課後。

 僕らは教室に残って今後について話し合うことにした。因みに放課後になるとクラスのみんなは風のようにすぐ帰ってしまう。


「どうすればクラスの雰囲気を明るく出来ますかねぇ」


 取りあえずみんなに意見を求めてみた。


「まったくわからん」


「コミュ症の僕もお手上げ」


 出雲さんと城井くんはどうしようもないと諦めムードだ。


「私は、もっと友達を増やしたい……」


 でも五十鈴さんは現状を変えたいと意気込んでいる。

 きっと理想的なのは一年生生活のような、賑やかで明るいクラスだ。このままの状況を維持して貴重な一年を流すなんて我慢できないよね。


「最初に狙いたいのは……隣の席の人」


「なるほど、いいですね」


 いきなりクラスそのものを変えるのではなく、まずは小さな一歩から踏み出すのが賢明だ。


 一年では僕が五十鈴さんの隣を独占してしまったけど、今年は初対面の女子が隣にいる。席が隣という接点は生かすべきだ。


「それはどうだろう…」


 でも城井くんはお勧めしないといった様子。


「五十鈴さんの隣の女性…日ノ国竜胆(ひのくにりんどう)といって、任侠の世界のお嬢様だって噂だよ」


「任侠?」


「つまりヤクザの世界のお偉いさんってこと」


「ヤクザ…」


 様々な天才を集める華岡学園。

 まさか裏の世界の天才まで集めているのか?


「一年の頃なんてガラの悪い側近を引き連れて、いつも黒い車で通学してるらしいよ」


「それはちょっと怖いね」


 日ノ国さんは前の席だから外見は覚えているけど、確かにそれっぽい雰囲気だったような…そんな危ない人に話しかけてもいいのだろうか?


「ふん…噂なんて下らない」


 その話を聞いて出雲さんは鼻で笑う。


「日ノ国家は名家の御曹司で、暴力団とは一切の関わりがない」


「え、そうなんですか?」


「彼女の両親がかなりの過保護で、同学年の男子を護衛として雇っているようだ。そのせいで誤った噂が独り歩きしているのだろう」


「やけに詳しいですね」


「実は私の家もそこそこの名家でな、日ノ国殿とは行事で何度も顔を合わせている」


「へぇ~」


 出雲さんの意外な家庭事情が知れた。

 それにしても怖いお嬢様だという誤った噂が、勝手に広まって周囲から恐れられているかぁ…


「なんだか五十鈴さんの状況と似てますね」


 ろくに本人と会話もしたことないのに、噂だけで距離を取ろうとするなんて僕もどうかしていた。これじゃあ五十鈴さんを誤解している一般生徒と同じだ。


「噂は信憑性が少ないのも魅力の一つだよ」


 城井くんがそんな言い訳をしているけど、それはさておいて。


「でも出雲さんの知り合いなら話は早いですね」


 出雲さんと日ノ国さんに接点があるなら簡単に声をかけられるじゃないか。


「いや…そう言われてもな」


 しかし、出雲さんは顔をしかめる。


「だって家族ぐるみで仲がいいのでは?」


「挨拶はしたことあるが、会話をしたことはない…逆に気まずいまである」


「そうですか…」


 つまり相手の性格どころか、友好的かどうかも分からないのか。


 となるとこっちの輪に誘うのは危険な賭けだな。

 世の中には慣れ合うことが苦手な人だっている…そんな人が集まったから、今のクラスが生まれたのかもしれない。もし相手がコミュニケーションを拒んだら五十鈴さんが傷つくだけの結果で終わってしまう。


「タイミングを見て、話しかけてみたい……!」


 それでも五十鈴さんはやる気だった。


 色々と不安だけどジッとしているだけでは事は進まない。今年は去年で得られた経験と勇気を生かして、僕らなりに行動に出る時期なのかもしれない。

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