1 園田くんと出雲さん
私立華岡学園は創立200年以上の歴史がある名門校だ。
広大な敷地面積を誇っていて、50年前に大規模な改装と増築が施され最新鋭の設備と新校舎などが建てられた。それから華岡学園は瞬く間に話題の人気学校になった。
そして最も特徴的なのが生徒の誰しもに、個性的な才能があることだ。
入学するには筆記試験と面接が必要なのだが、筆記試験の点数が低くても面接次第で合格が決まる場合もあるらしい。また才能のある生徒は学校側から試験免除でスカウトされるんだとか。
生徒が持つ才能、個性、信念を重視して入学させる生徒を選んでいるから、この学校の卒業生は様々な分野で有名人になる。
僕と五十鈴さんはその華岡学園に入学して一年が経過した。
最初の一年は悪戦苦闘の日々だった。
初めての学校生活で環境に慣れるだけでも一苦労なのに、五十鈴さんは“日本語の話せない高貴なお嬢様”という誤解が学校中に広まってしまう始末。クラスメイトにも恐れられて最悪の出だしとなってしまった。
そんな危機を救ってくれたのが偶然仲良くなれた四人の友達だ。
世話焼き好きで頼りになる西木野さん。
いつも運勢に左右されている星野さん。
影が薄いことを気にしてる木蔭さん。
いろんな匂いを嗅ぎまくる朝香さん。
ついでに僕の幼馴染の昴と涼月くん。
みんなの協力で何とかクラスで居場所を作ることに成功した。それから学校行事を得てクラスメイトとも打ち解けて、みんな五十鈴さんのことを怖いだなんて思わなくなった。
結果としては素晴らしい一年生生活だった。
クラス替えでリセットされるのが惜しまれるくらいに…
※
二年生に進学して最初の登校日。
僕は不覚にも風邪を引いて休んでしまったけど、幸いにも軽症だったので次の日には登校できた。
「ふぅ…緊張するな」
いよいよ新しいクラスとの対面だ。
この瞬間は誰だって緊張する。
「あれ?」
学校の校門を潜ると見覚えのある高身長の女子を発見した。
「おはようございます、出雲さん」
僕は勇気を出して声をかけてみた。
何故ならこの人は西木野さんが教えてくれた、数少ない同じクラスの顔見知りだ。
「…おはよう」
振り向いた出雲八恵さんは挨拶を返してくれた。
男子顔負けの高身長に武士のような凛々しい顔立ち。強面で美人という点では五十鈴さんに共通しているけど、この人は意図して相手を威圧するように話すからどこか近寄りがたい。
でも今の僕と五十鈴さんにとっては数少ない味方だ。
「今年もよろしくお願いします」
「…去年によろしくした覚えはないが」
相変わらず出雲さんは僕に対してぶっきらぼうだ。
でも出雲さんと五十鈴さんの関係もまだ微妙だったりする。
夏休みでショッピングの最中に偶然出くわして、そこからプールで一緒に遊んだ仲ではある。でも関係はそれ以上進展していないらしい。
「出雲さんも昨日は学校を休んだらしいですね」
「ああ…家の用事で急遽な」
華岡の敷地は広くて道のりも長いから、話しながら二人で新しい教室へ向かうことになる。
「五十鈴さん、一人で不安にしてたそうですよ」
「私がいたところで安心させることは出来ないだろう」
「そんなことないでしょう。一緒に遊んだ仲じゃないですか」
「…」
出雲さんは思い悩んだ表情だ。
何か踏ん切りがつかない理由があるのかもしれないけど、五十鈴さんのことが気になっているのは確かなはず。そうでもなければ“五十鈴さん親衛隊”なんて組織に参加するはずがない。
「出雲さんの席って僕の隣でしたよね」
「そうらしいな」
「正面には五十鈴さんが居るので、しばらくはこの三人で行動しましょう」
「ん…だが私は見ての通り愛想が悪く、気の利いた話題を持ち合わせていない。西木野や星野の代わりを期待するなよ」
「そんな肩肘張らなくてもいいんですよ、友達関係なんて」
「お前は人間関係において経験豊富だからな…それに比べて私は堅物だ」
うーん…すごい後ろ向きだな。
僕も最初の頃はそうだったから気持ちは分かるけど、新しいクラスの仲間は現状だとこの三人だけだ。出雲さんに自信がなくても居てくれるだけで心強い。
あと気になるのは新しいクラスメイトだ。
一年のクラスはなかなかに個性派ぞろいだったから、二年ではどんな個性の人が集まっているのかちょっと楽しみでもある。
既にリーダーシップのある人がクラスをまとめてたりして。




