115 時は流れて…
お泊まり会が終わると、あっという間に時は進んでいった。
本当はみんなで初詣とかにも行きたかったんだけど、五十鈴さんは家の事情でてんてこ舞いになってしまった。もちろん僕だって両親が帰ってきたりと正月はみんな大忙しだ。
気付けば冬休みが終わり、新入生の入学試験やら、三年生の卒業式やら、進学についてやらで毎日が忙しない。でもそんな時間をつまらないなんて思わなかった。
むしろ終わってほしくないとさえ、きっとみんなも思っていたはず。
※
季節は春に変わった。
春になるとあっという間に暖かくなり、学園の敷地にある木々から美しい桜の花が咲き誇る。その見事な桜は世間でも有名で、絶好のお花見スポットとしてテレビで取り上げられたらしい。
「やっぱり華岡ってやることなすこと激しいよね」
ある日のお昼休み。
星野さんはおにぎりを頬張りながらそんなことをぼやく。
「三年生の卒業式とか新入生の入学式とか、毎年準備がすごいらしいね」
「ある意味で一番重要な学校行事だからな」
西木野さんは手作りお弁当をゆっくり食べている。
「そういや園田の妹ちゃん、受かってよかったな」
「ええ、皆さんが勉強を教えてくれたおかげですよ」
話ながら僕は購買で買った焼きそばパンを頬張る。
普段なら女子組の昼食には混ざらないんだけど、今日は珍しく誘われたから五十鈴さんたちの輪の混ざってみた。
周りの視線は…もうどうでもいい。
「楓ちゃんと学校で会えるのが楽しみだね〜」
朝香さんは西木野さんと同じ内容のお弁当を食べてる…もしかして作ってもらってるのかな?
「でもいよいよ進級だね…クラス替えが怖い」
僕と同じ購買派の木陰さんは不安そうにコッペパンを食べてる。
「新しいクラスの発表は当日だっけ?」
「私たちの世代は天才が豊作だとかでクラス多いから、高確率でうちらバラバラだね」
「そもそも割り振りの基準ってなんだろうね〜」
やっぱりみんなもクラス替えが気になって仕方ないようだ。
「緊張……する」
五十鈴さんも不安そうにしているけど、前のようにただ絶望しているわけではなさそうだ。
「人間関係のリセットは誰だって緊張するからな」
「西木野さんでも……?」
「そりゃそうよ〜できればこのメンツで二年生生活を送りたい。でもそれじゃあ新しい友達とか作れないじゃん」
「うん……」
誰だってクラス替えに対しては不安を抱くけど、悪い行事とは言い切れないから複雑だ。
「困ったらにゃいんで相談していい…?」
木陰さんが控えめに手を上げる。
「困ってなくても、いつでも話題を待ってるよ」
「…それだけで安心するね」
今の時代、学校にもスマホを持ち込めるから便利だ。
「そういえば気になったのですが」
ここで僕は別の話題を切り出す。
「出雲さんとは夏休みからどうなんですか?」
「あー出雲さんねぇ」
西木野さんは困ったように頭をかく。
「挨拶くらいはするけど、なかなか距離を詰めさせてくれないんだよね」
「遊びに誘ったりは?」
「前は試してたけど、あの手の人は強引に誘っても逆効果なんだよ」
「なるほど…」
これは涼月くんの時と似ている状況だ。
向こうがその気にならなければ、どんなに仲良くなる努力をしても無駄。だから向こうがその気になるきっかけが必要なんだ。
「もし進学して同じクラスになれたら、もしかしたらチャンスかもな〜」
西木野さんの言う通りかもしれない。
他に誰も頼るあてがない状況なら、出雲さんだってそこまで薄情ではないはずだ。何てったって五十鈴さん親衛隊の一員なんだから。
「とにかく二年生生活でどんな関係が築けるかなんて、進学してみないと分からないってことだ」
適当な感じで西木野さんが話を締めくくる。
「一年生は……すごくよかった」
すると五十鈴さんはそう囁いた。
「みんなと同じクラスになれてよかった」
「…それはこっちのセリフだよ」
「一年生生活は五十鈴さんのおかげで100点だよ!」
「すごく楽しかったね…」
「五十鈴さん大好き〜」
何故か一年生生活を締めくくるような流れになってしまった。でもやりたいことに挑戦するのも、困難が立ち塞がるのも、すべては進級してから始まることになるだろう。
…五十鈴さんと同じクラスになれたらいいな。




