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114 お泊まり会⑤ ㋨




 賑やかなお泊まり会も更けて深夜1時。


 五十鈴さんたちは和室の部屋に布団を広げて、みんなで雑魚寝する形になった。とはいえそこまで広いスペースではないので園田くん兄妹は自分の部屋で就寝することになる。


「なんだか修学旅行みたいだねぇ」


 星野さんはウキウキしながら枕を抱きしめる。


「修学旅行……」


 しかし五十鈴さんはその例えがしっくりこない。


「あ、ごめん。五十鈴さんはしたことないんだったね」


 星野さんはすぐ失言を謝る。


「確か華岡って修学旅行がないんだよね…」


 そこで木陰さんが悲しい事実を告げる。

 華岡の学生は有名人ばかりなので、修学旅行といった外での学校行事はほとんどない。トラブルのリスクが高すぎるからだ。


「修学旅行……行ってみたかったな」


 やりたいことには書いていなくても、五十鈴さんは経験できない学校行事に未練を残している。


「その内やってみようか、私たちだけで修学旅行」


 すると西木野さんがそんな提案をする。


「修学旅行を経験したいなら学校行事に縛られないで、私たちで勝手にすればいいんだよl


「なるほど…すごい発想だね」


 いつだって行動的な西木野さんに感心する木蔭さん。


「あの“やりたいことノート”には細かい条件や縛りなんて無いんでしょう?」


「うん……先輩も同じこと言ってた」


 五十鈴さんはやりたいことノートを取り出す。

 このノートの目的は、如何にしてやりたいことを楽しむかだ。そうやって柔軟に考えれば大人になってからでも修学旅行や運動会は達成可能だ。


「焦って頑張らず、のんびり学園生活を楽しみな」


「うん……」


 五十鈴さんは改めて友達の頼もしさを実感するのだった。





「せっかくの女子会なんだから誰か恋バナとかないの〜?」


 星野さんが次の話題を出したものの、誰も口を開かない。


「言い出しっぺの星野ちゃんは?」


「ない!」


「でしょうな…」


 西木野さんはこの話題をどう展開すべきか悩む。


「華岡学園の天才って個性が強すぎて、妙に噛み合わないんだよね」


「あーわかる。趣味が共通しないんだよね」


「それと自分優先だから付き合ってもすぐ疎遠になりそう」


「友達としてなら面白い人たちなんだけどねぇ」


 西木野さんと星野さんが華岡の恋愛事情について語り合う。


「恋愛…私にとっては空想の世界」


「……?」


 しかし木陰さんと五十鈴さんからしたらついていけない話題だ。


「じゃあ園田くんは〜?」


 すると朝香さんがお菓子をつまみながらそう呟く。


「個性とかなくて普通で、私たちとも気が合うよ〜」


 その言葉でみんなは黙りこくる。

 園田くんを彼氏にする…それは個人的に有りか無しか。


「普通に悪くはないと思うぞ」


 まず感想を口にしたのは西木野さんだ。


(占いで出た運命の相手だし、ゲームでもすごく気が合う…悪くないのかな?)


 星野さんは口には出さず内心そう思う。


「男子は苦手だけど、園田くんなら緊張しないんだよね…」


 木陰さんも満更ではなさそうだった。


 要するに可もなく不可もない平凡という評価。それは決して酷評ではなく、信頼できるからこそ警戒せず自宅を借りてお泊まり会を開けるのだ。


「でもそれは五十鈴さんに悪いよな」

「だよねぇ」

「どちらかというと、見守りたい…」


 だが女子たちは同じ結論を出して五十鈴さんに目を向ける。


「五十鈴さんはずっと園田の側にいるけど、脈とかないの?」


「みゃく……?」


 西木野さんに話を振られるが五十鈴さんはちんぷんかんぷんだった。


「そうだね…これは例えなんだけど」


 木陰さんは恋について五十鈴さんに理解してもらえるよう話し始める。


「まず園田くんに呼び出されて五十鈴さんは教室で二人きりです…」


「うん……」


 五十鈴さんはそのシチュエーションを想像するが、それは放課後に芸術室で集まるというありふれた日常だ。


「そしたら園田くんは五十鈴さんのことが好きだと告白して、手を握ってきます」


「……」


「この状況で出てくる感情ってどんなの…?」


 五十鈴さんはその状況を頭の中で想像した。


「へ……えっと……」


 その瞬間、五十鈴さんの顔は真っ赤に変わる。


「ぶふっ、顔真っ赤じゃん」

「え、可愛いんだけど」

「あらあら〜」


 その反応を見たら誰だってニヤけてしまう。


「恋愛ってそれに近い感情だと思うよ…」


「よく……わからない……」


 どうして自分がこんなにも取り乱しているのか、五十鈴さん自身も分かっていない。この感情を表すには恋愛の知識が足りなかったようだ。


「恋については私たちも未経験だから偉そうなこと言えないけどな」

「少女漫画でも読んでゆっくり理解するといいよ」

「あ、おすすめの恋愛小説あるよ…」

「恋の香りのポプリなら作ったことあるよ~」


 こうして女子たちの話題は尽きることなく、お泊まり会の夜は過ぎていくのだった。





「楓、どうだった?」


「みんなまだ寝てたよ~」


「かなり夜更かししたみたいだな」


「お泊まり会なんてそんなものだよ」


「朝食になるか昼食になるか分からないけど、食事の用意はしておくか」


「うん、パンケーキいっぱい作ろう!」

40 お泊り会をする。×

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