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113 お泊まり会④




 待望のお風呂イベントだけど、男の僕には関係のないこと。浴室で何が起きているのかは妄想で補完しよう。


「いや~五十鈴さんの体はまさに神の作品だな」


「半端ないっす」


 一緒に入浴する権利を得た西木野さんと星野さんはご機嫌だ。


「いいお湯でした……」

「快適だね、新築マンション…」

「お腹いっぱいで眠くなってきたね~」


 なんやかんやでみんな入浴を終えた訳だけど…広いリビングがすっかり女子のいい匂いで満たされた。この状況を素直に喜べない自分が憎らしい。


「それじゃあ学園祭で買った人生ゲームやろう!」


 一息ついたところで星野さんが学園祭で購入したボードゲームを取り出す。


「なんとこのゲーム、シナリオがあります」


「人生ゲームなのにシナリオ?」


 西木野さんが首を傾げる。

 普通の人生ゲームならルーレットに従って就職してお金を稼ぐシンプルなゲームだけど、このボドゲは華岡の天才が生み出した作品だ。


「これはTRPGの一種でね、サイコロを振って様々な物語に分岐するんだよ」


「なんか難しそうだなぁ」


「私がゲームマスターになってみんなをサポートするから大丈夫!この日のために入念に用意したんだから」


 意気揚々と星野さんはゲームマニュアルを開く。


 このゲームは自分で登場キャラを作り、シナリオ通りにコマを進めて、選択肢という分岐点を自分たちで決めて、時にはサイコロによる運に展開を任せる。


 初めてやるタイプのゲームだから楽しみだ。


「私もやるー!」


 妹も飛び入り参加してくるけど…


「お前、受験が終わるまでゲーム禁止じゃなかったか?」


「うぐ…」


「今日は一度も勉強してる姿を見てないけど、華岡はそんなに甘くないぞ」


 僕がそう指摘すると妹は後ずさる。


「楓ちゃん、華岡学園に受験するんだ~」

「未来の後輩だね」

「勉強なら教えるよ…」


 みんなは妹の受験を応援してくれた。


「応援、してる……」


 五十鈴さんも小声でそう呟く。

 もし受かれば妹は初めての後輩になる。慕っている先輩はいても後輩はいないから、少し特別な期待を寄せているのかも。


「まぁ今日くらいはいいじゃん。息抜きも必要だぞ」


 西木野さんは気軽にそう提案する。

 それもそうか…

 

「今日くらいはいいだろう」


「やったー!」


 こうしてみんなで人生ゲームを遊ぶことになった。





 僕らはいつの間にかボードゲームの世界に引き込まれてしまった。


「こうして探索者たちはいつもの日常を取り戻しました…めでたしめでたしっと」


 星野さんがマニュアルを閉じる。

 何とかハッピーエンドでクリアすることが出来た。


「ふぅ…すごかったですね」


 終わるとまるで超大作の映画を一本見終えたような疲労感に襲われる。ストーリー、ゲームバランス、デザイン…何もかもが最高だ。


「すごいな…これ」

「小説を読むよりも臨場感あったね…」

「次回作が楽しみだね~」


 みんなも物語の余韻に浸っている。

 流石は華岡の天才が手掛けた作品だ。


「いや~園田くんが爆弾を抱えて崖から飛び降りた時はどうなることかと思ったよ」


 ゲームマスターの星野さんも終始楽しそうだった。


「思ったより時間を使いましたね…そろそろ寝ますか?」


 今の時刻は夜の10時。

 良い子なら寝る時間だ。


「いやいや、お泊まり会の夜は長いんだぞ」


 西木野さんがそう言うとみんなも頷く。


「まだプレゼント交換もしてないよ!」

「話したいことが山のようにある…」

「うちのテレビ、映画見放題なんですよ」

「へぇ、有料契約してるんだ」

「お菓子が食べたいな~」


 どうやらまだまだ寝るつもりはないようだ。

 長い夜になりそう…


「園田くん……」


 その様子を遠くから眺めていると、五十鈴さんがトコトコと寄って来る。


「楽しんでる……?」


「…」


 この状況を僕が楽しんでいるかどうか…そんなのは決まってる。


「もちろん楽しいですよ」


 これは紛れもない本音だ。

 普段は妹と二人だけでずっと静かだから、こうして家中が賑やかになると気持ちが晴れる。女子ばかりで居心地が悪いけど考えてみればいつものことだ。


「じゃあ、もっと遊ぼう……」


 五十鈴さんは嬉しそうに僕の手を引いた。


 まさかあの病弱だった五十鈴さんに引っ張ってもらうなんて、出会った頃は想像も出来なかったな。

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