112 お泊まり会➂
「さて、夕食の下ごしらえでもするか」
体を十分温めたところで西木野さんが立ち上がる。
本日の夕食の献立はビーフシチューハンバーグだ。シチューは煮込むのに時間がかかるから、明るいうちに始めようと決めている。
「食材は揃ってますよ」
僕は真っ先に台所へ向かう。
ビーフシチューに使う牛もも肉のブロックと、ハンバーグに使う挽肉。その他の食材を七人分も買ったから冷蔵庫はパンパンだ。
「うわ、すげー肉!」
「100%の牛ひき肉、初めて見たかも…」
西木野さんと木蔭さんは高級なお肉に感激している。
親に今回のお泊まり会の話をしたら予算を大奮発してくれて、未成年は買えないだろってシチュー用のワインまで送ってくれた。
「園田って実はブルジョアか?」
「そうでもないです…最近は何でも物価が上がって嫌になりますよ。卵とかトマトとか」
「ああ…卵1パック99円の時代が懐かしいわ」
「オリーブオイルともさよならですよ」
「わかるわ~」
西木野さんも僕と同じで、日々の節約に悩まされる庶民なんだ。まぁうちの両親がどれだけ貯金してるかなんてわからないけど。
「そんなことより料理しようぜ」
「私も微力ながら…」
「頑張りましょう」
ビーフシチューハンバーグ担当は料理に自信のある西木野さん、木蔭さん、僕の三人だ。
「そんじゃあサラダ組の私たちはのんびりしてようか」
「うん……」
「お喋りしよ~」
副菜担当の星野さん、五十鈴さん、朝香さんはしばらく自由時間だ。キッチンは狭くて三人が限界だから二組に分かれて調理にあたる。
初めての良い肉だ、絶対に成功させよう。
※
色々あって夕食後。
「ごちそうさまでした」
ハンバーグはふっくらと肉汁が溢れて絶品。
良い肉とワイン一本を使用したシチューは濃厚。
サラダは海鮮が具沢山でボリューム満点
朝香さんが用意してくれたケーキも最高に美味しかった。
年に一度の贅沢な夕食だった。
「美味しかったねぇ」
「大成功だね…」
「満腹……」
「このまま寝ちゃいそうだね~」
美味しいものでお腹を満たした女子たちはコタツで横になっている。五十鈴さんと木蔭さんもリラックスできていて何よりだ。
「食洗器付きのキッチンとか便利でいいな~」
後片付けを手伝ってくれている西木野さんは可動している食洗器を羨ましそうに眺めている。
「今日は七人分もあるので、久しぶりに働いてもらいます。普段は二人分の食器だけなので使わないのですが」
うちは新築マンションだからオール電化、便利だけど普段は使わない設備が色々ある。
「みなさ~ん」
すると妹が廊下から声をかける。
「あと少しでお風呂の準備ができます。うちの広さなら三人同時に入れますよ」
キッチンから遠隔で作動させておいたお湯はりが完了したみたいだ。女子は妹も含めて六人いるから、今回も二組に分かれるのかな。
「そっか…七人いるから一人余るな」
「なにさらっと僕を入れてるんですか、無理ですよ」
西木野さんが冗談で言ってるのは分かってるけど、女子と一緒にお風呂なんて入れるわけがない。
「え?つい最近私と昴ちゃんの三人で入ってたでしょ」
「言わなくていいんだよ!」
妹が余計なことを言う。
半年前、妹は事故に遭って足が不自由だった。その間は僕がお風呂の面倒を見ていたし、お節介の昴が全裸で乱入してきた時もあった。
「五十鈴さん、これが幼馴染の距離だよ」
「……!」
西木野さんに肩を叩かれ五十鈴さんは何かを決心したように頷く。
「変なこと吹き込まないでください!僕は意地でも一人で入りますよ!」
この一線は男として絶対に超えてはいけない。
「まぁ園田は置いといて、誰が五十鈴さんとペアになるかじゃんけんしよーぜ」
僕のことを散々からかった後、西木野さんは背を向ける。
…やっぱりこの人が一番厄介だ。
「譲れない勝負だねぇ」
「うん…!」
「勝つぞ~」
「私もやる!」
五十鈴さんとの入浴をかけて、女子組の戦いが始まる。
今日はずっと賑やかだなぁ…




