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104 学園祭最終日➂




 のんびり雑談をしていると、いつの間にか日が暮れ始めていた。


「お腹が空きましたね」


「うん……」


 昼ごはんは余った猫カステラを少し食べただけだから、学園祭最後に向かう出し物は食べ物系がいいな。


「この時間までやっている飲食店はあるかな」


 パンフレットで営業時間を調べてみるけど、もうほとんどが店じまいを始めている。高等部ならまだやってる店もあるだろうけど。


「これなんてどうかな……」


 すると五十鈴さんはパンフレットの端を指差す。


「おにぎり屋さんですか」


 天才が集まる華岡らしくない地味な出し物だな。

 でもどうしてだろう、無性に惹かれる。


「こんな平凡な店でいいんですか?」


「うん……珍しいのはもういいかな」


 五十鈴さんもいろいろ体験して疲れてるみたいだ。





 そしてやって来たおにぎり屋さん。

 

 吊るされた暖簾をくぐると、教室の床に畳が敷かれていて生け花や提灯が和の雰囲気を作り出している。それと中学校舎の窓はやけに大きくて外の景色の見晴らしがいい。


「いらっしゃいませ~」


 僕と五十鈴さんを迎えてくれたのは、何処にでもいそうな女子中学生だ。女子三人だけで切り盛りしているのか。


「こちらの席にどうぞ」


 店員に先導されて窓際のお座敷に座る。


「メニューはおにぎりと豚汁だけですね」


「おいしそう……」


 学園祭のおにぎり屋なんて普通はこんなもんだよ。

 いや、これこそが正解なんだ。


「じゃあおにぎりセットをください」


「同じものを……」


 僕と五十鈴さんは悩むことなく定番メニューを注文した。


「少々お待ちを~」


 注文を受け取った店員は調理場に戻って行く。


「ふぅ…」


 ここは静かでゆったりできるから落ち着くな。店員も五十鈴さんを見て騒いだりしないし、他の客は四人しかいない。


「…ん?」


「…あ」


 僕と五十鈴さんはあることに気付いて声を漏らした。


 あの入口側の席に座ってる人…歴史に残る名曲を次々と生み出している伝説の歌手だ。テレビの音楽番組で華岡の学園祭を紹介していたから記憶に残ってる。

 それと一緒に食事をしているのは難事件を解決した名探偵の息子。あっちの人はトップアイドルで、向かいに座るのは超人気配信者だ。


 ここに集まっているのはただの天才ではない…前に城井くんが教えてくれた天才の中の天才、100年に一人しか生まれない特別な天才たちだ。


 なんでこんな平凡な店に大物が集まってるんだ?


「んお、あれが例の美少女じゃない?」


 すると人気配信者が五十鈴さんの存在に気付いて、他の客の目が集まる。


「ふぅん、噂通り素材だけは一級品ね」

「きゃわいいねぇ」

「ふん…」


 でも少しの反応を見せるだけですぐ目を逸らされた。一般人ならもっと大袈裟なリアクションを取るのに…やはり本物の天才は違うんだな。


「お待たせしました」


 お、注文した料理が運ばれてきた。


 二種のおにぎりとたくあん。

 紙皿に盛られた具沢山の豚汁。

 そして冷たい緑茶。


 なんだか久しぶりに普通の料理を食べる気がする。


「それじゃあいただきます」


「いただきます……」


 考えてみると五十鈴さんと二人きりで食事するの、学校をサボった時以来だな。





 おにぎりセットはすごく美味しかった。

 学園祭が始まって非日常な体験ばかりしてきたから普通の料理が心に沁みる。やっぱり人間に一番必要なのは、こういう何気ない一時なのかもしれない。


 もしかしたら他の天才たちもそれを求めてここに来たのかな?


「ん……」


 五十鈴さんも食事を完食してなんだか眠そうだ。


 ドーン!


 その時、外から打ち上げ花火の音が鳴り響く。

 しかも夏祭りの時よりも見晴らしがいい。


「ここから花火が見えるんですね」

「ねぇねぇ、部屋を暗くしようよ!」

「端っこの不利な場所と思いきや、絶景スポットです」


 おにぎり屋を営業している三人も想定外だったようだ。


「ほら、やっぱりこの店にして正解だったでしょ」

「悪くない」

「花火…何年ぶりに見たっけ」


 他の人も外から見える花火の景色に見惚れている。


「綺麗ですね」


「うん……」


 窓際を確保できたのはラッキーだったな。

 僕と五十鈴さんは肩を並べて花火を見上げた。


 ………


 ……


 …


 いろいろあったけどこの一時が学園祭で一番楽しいかも。


 その時、肩に重たい感触がのしかかる。


「……」


 五十鈴さんが寝てしまったんだ。


 今日はやけにロマンチックなことが起こるけど、今は興奮するような気分になれない。学園祭が終わる時間までこうしてのんびりしていよう。

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