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103 学園祭最終日②




 今頃、教室では猫カフェ成功を祝ってるんだろうな。


 そのタイミングまで教室にいたらクラスメイトは五十鈴さんを逃がさない。本来なら喜ばしいことなんだけど、今回は捕まるわけにはいかない。


「ふぅ…何とかバレずに抜け出せましたね」


「はぁはぁ……うん」


 僕と五十鈴さんは息を整える。

 このこっそりクラスを抜け出した背徳感、学校をサボった時を思い出す。


「五十鈴さん、学園祭お疲れさまでした」


「うん、園田くんもおつかれ……」


 取りあえず僕らも出し物の成功と総務委員の仕事完遂を労った。


「いい経験になりましたけど、来年は学級委員を引き受けない方がいいですね…思ったより束縛が多いので」


「うん……楽しかったけど、もういいかも」


 今年は西木野さんと五十鈴さんが結託して学級委員長に挑戦したけど、来年は普通の生徒としてのんびり学園祭を堪能したいな。


 でも今はそんな未来の話はどうでもいい。


「それじゃあ何処に行きましょうか?」


 取りあえずパンフレットを取り出す。

 二人だけで歩き回るから、あまり人の多い場所には行きたくないけど。


「その……中等部に行ってみない?」


 すると五十鈴さんが珍しくそう提案してくれた。


「華岡の中学ですか?」


「あそこならイベントもないから人混みも少なくて、クラスメイトにも出会わない……」


「なるほど」


 やけにきっちりした作戦を立ててる。教室を抜け出すことも事前に計画してたし…多分だけど西木野さんたちも協力してくれたのかな。


 後でお礼を言っておこう。


「それじゃあ行きましょうか」


「うん……」


 こうして二人で中等部の学園祭へ向かうことになった。


 …緊張する。





 中等部の校舎に来るのはこれで初めてになる。


 ここは50年前の大規模改装の対象外で、校舎や広場は200年の歴史が残されたままの古びた印象を受ける。

 中学の生徒は少人数で学年ごとに100人を超えず、最終日は高等部の広場とホールでイベントが行われるから人気が少ない。


 でも一つ一つの出し物のクオリティは高等部に負けてない。

 流石は華岡の生徒、年下でも天才は天才だ。


「ここが中学校……」


 歩きながら五十鈴さんは中学校舎を見渡す。

 入院して通えなかった場所だから、いろいろ思うところがあるのかな。


「園田くんは、どんな中学生だったの……?」


「え?」


「どんな学校生活を過ごしてたのかなって……」


 中学の頃の思い出かぁ…


「…今よりもずっと平凡な人生でしたよ」


 思い返してみると教室の隅で涼月くんと駄弁ってた記憶しかない。


「楽しかった……?」


「どうでしょう…学校に通えるからといって、楽しい学生生活を送れるとは限りませんから」


「そう……なのかな」


 五十鈴さんにとって学生生活が楽しいものだと認識できてるなら喜ばしいことだけど、それは努力以上に運が良かったからだ。


「例えばもしうちのクラスに西木野さんや僕が居なかったら、どうなっていたと思います?」


「それは……」


 西木野さんたちと出会わなかった未来を想像した五十鈴さんは苦い顔になる。

 

「……想像したくない」


「僕の中学生生活がまさにそれですよ」


「私って、恵まれてたんだね……」


「でもこうして五十鈴さんと出会ったおかげで、中学よりも充実した高校生活を送れていますよ」


 五十鈴さんと出会わなければ僕はずっと平凡な学生だった。人との出会いが平凡な人生を変えるなんて、中学の頃は思いもしなかったな。


「よかった……」


 五十鈴さんは静かに微笑む。


「私のせいで園田くんに苦労をかけてないか、いつも心配だったから……」


「五十鈴さんには感謝してますよ」


「じゃあ、困ったことがあったら何でも言ってね……」


「あはは…ありがとうございます」


 なんだかすごく久しぶりに五十鈴さんと会話をした気がする。

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