101 五十鈴さんのモヤモヤ
学園祭一日目は無事終了した。
(楽しい……)
五十鈴さんはとても充実していた。
初めての学園祭は見る物すべてが新鮮で、自分の中の狭い世界が何度もひっくり返った。
そしてクラスメイトのみんなと学園祭を回ることが出来たのが一番の成果だ。まだちゃんと会話をすることが困難だが、頷いたり首を横に振るだけで意思疎通は十分。困った時は頼もしい友達がカバーしてくれるので安心して学園祭を楽しめた。
素敵な思い出をたくさん作れて大満足のはずだった。
「……」
しかし五十鈴さんはモヤモヤしていた。
何が心をざわつかせているのか、原因は分かっている。
それは園田くんと一緒に遊べてないことだ。
ただ五十鈴さんは奇しくも園田くんと似たようなことを考えていた。
今回の学園祭はクラスメイトとの交流を深めるチャンスで、やりたいことノートに書かれている“学園祭で全ての模擬店を回る。”も自然と達成に近付いている。
だから園田くんと学園祭を回る必要はない。総務委員の仕事の際にだけ、あった事や楽しかったことを話せればいい。
今回はそれでいい…五十鈴さんは自分にそう言い聞かせて我慢していた。
※
学園祭四日目。
五十鈴さんは友人やクラスメイトたちと学園祭を回り、園田くんとは総務委員で一緒になるだけでほとんど別行動の毎日だ。
ただどうしても園田くんのことが気になってしまう。
「おーい園田、ちょっと付き合ってくれ」
「いいですよ」
「園田くん、この謎々は解ける…?」
「これは難しそうですね…」
「園田くん!また妹ちゃんと一緒にゲーム喫茶行こう!」
「もちろんいいですよ」
園田くんが別の友達と学園祭を満喫している姿を見るたびに、自分の中のモヤモヤは日に日に大きくなっていた。
「……?」
そして寂しさや迷いとは違った、嫌な気持ちが胸を締め付ける時がある。この感情の正体が何なのか今の五十鈴さんには分からない。
「どうしたの?五十鈴さん」
その気持ちが顔に出ていたのか、西木野さんに声をかけられた。
「なんか元気なさそうだね」
「体調…悪い?」
「リラックスするポプリ嗅ぐ~?」
いつも一緒にいる星野さん、木蔭さん、朝香さんも元気のない五十鈴さんを心配してくれていた。
「えっと……」
五十鈴さんはこのモヤモヤを言葉にするべきか迷った。
「今更遠慮することないよ、何でも言ってみな」
よそよそしい気配を感じ取った西木野さんが笑顔でそう言ってくれた。
「……」
いくら学校生活を共にしていても、心の壁というものはそう簡単には壊せない。これまで五十鈴さんが本音をぶつけられる相手は家族か、園田くんとアメ先輩くらいだった。
でも西木野さんたちになら、心を許してもいい。
今ならそう思えた。
「……最終日、園田くんと二人で学園祭を回りたい」




