99 学園祭④
午後の目玉イベント、ファッションコンテストは観終えた僕らは多目的ホールの会場を後にした。
催しの感想を一言で表すなら、すごかった。
五十鈴さんに負けず劣らずの美少女たちが、豪華な衣装を着飾ってパフォーマンスをする姿はまさに圧巻だ。
「すごかったね…」
「同じ学生とは思えないわ」
木蔭さんと西木野さんも名作映画を一本観終えたような気分になっていた。
「みんなすごい美人だった……」
五十鈴さんもそんな感想を呟いている。
「…」
僕は無意識に五十鈴さんと、コンテストに参加した学生アイドルや女優の容姿を比べた。
確かに参加した人達が美人なのは間違いないけど、やっぱりあっちは化粧と衣装で作られた容姿だ。対して五十鈴さんはスッピンの制服姿なのに、互角どころかそれ以上の評価が得られるだろう。
「五十鈴さんも負けてないけどな」
「優勝も狙えるね…」
西木野さんと木蔭さんもそんな言葉を口にしていた。もっともあんな大舞台に立てる度胸が身に付くのは、何年も先の話だな。
「あ、待ってたよ~」
すると星野さん率いるクラスメイトが入口で集まっている。
「この後も五十鈴さんはみんなと学園祭回るの?」
「うん……」
「もう今日の分の写真は撮り終えたし、私も一緒に回ろうかな」
今度は西木野さんもクラスメイト組に合流するみたいだ。
「木蔭さんも行こうよ」
「う、うん…」
ついでにと木蔭さんもクラスの輪に混ぜる西木野さん。
となると…僕はどうしようかな。
「園田くん!」
すると星野さんに声をかけられた。
「このあと予定ある?」
「いえ、特にないですよ」
「じゃあ一緒にゲーム喫茶に行こう!うちのクラスでゲームに興味ある人いないから」
「ゲーム喫茶なんてあるんですか?」
「うん、アナログゲーム専門ね。そこにはゲームクリエイターの天才がいるらしくて、自作のゲームを販売してるんだって」
「おお~それは面白そうですね」
僕と星野さんはゲーム大好きだから見過ごせない模擬店だ。
「じゃあ行きましょうか」
「行こう行こう!」
こうして二人でゲーム喫茶へ行くことになった。
「……」
一瞬だけ五十鈴さんと目が合ったけど、なんだか頼りなく思えたのは気のせいだろうか。向こうには西木野さんたちがいるから大丈夫なはずだけど。
今の五十鈴さんはもう弱くないし、きっと気のせいだ。
※
「ねぇ園田くん、誘っといてあれだけど大丈夫なの?」
ゲーム喫茶に向かう途中、星野さんは振り返って意味ありげな笑みを浮かべる。
「五十鈴さんと一緒のが良かったでしょ」
「…西木野さんにも似たようなこと言われましたけど、今回の五十鈴さんはクラスメイトとの交流を優先した方がいいですよ」
「そうかなぁ」
「ゲーム喫茶はかなり時間を取られそうですし」
五十鈴さんもゲームはそれなりに好きそうだったけど、アナログゲームはマニアックなのも多いから付き合わせるのは申し訳ない。
「それに一緒にゲームを遊ぶなら星野さんでしょう」
「お、嬉しいこと言ってくれるね」
僕の腕をぺしぺしと叩く星野さん。
何だかんだ妹と一緒に家でゲームする仲だからね。
「ここですね」
そうこう話しているうちにゲーム喫茶に到着した。
中では数種類のゲームが発売されており、買ったゲームを遊ぶスペースも設けられている。カードショップとかによくあるような雰囲気だ。
「これは…TRPGですか。名前は知ってたけど初めて見ました」
僕はまず出品物の中から一冊の本を手に取った。
TRPGとはテーブルトークロールプレイングゲームの略だ。
人生ゲームをすっごくカジュアルにして、ちょっとダークな要素を取り入れたものが一般的かな。綺麗な挿絵に読みやすい文章…素晴らしい完成度だ。
「私も聞いたことはあるけど遊んだことないんだよね」
星野さんは別のTRPGのマニュアルを捲っている。
「いろいろ買ってみて、学園祭が終わったらみんなで集まって遊びませんか?」
「いいね!私はこっちのを買うから、園田くんはあっちのを買ってよ」
「了解です!」
どうせ一緒に遊ぶなら二人で同じ物を買わず、別々でいろいろなゲームを揃えたほうがお得だ。
「楓ちゃんも学園祭に来るんだよね?」
「妹は明日くるつもりですよ」
「じゃあ三人でまたここに行こうよ」
「いいですね、あいつにも何か買わせましょう」
うん…五十鈴さんや西木野さんと遊ぶのも楽しいけど、やっぱり星野さんは趣味も調子も一番合うな。




