98 学園祭➂
僕、西木野さん、木蔭さんの三人はしばらく猫カフェの端の席でのんびり過ごすことにした。池永くんや野田さんたちが張り切ってくれてるからのんびりできる。
うん、何度も味見したけどここの猫カステラは絶品だ。
「うーん…」
向かいの席に座る木蔭さんは、学園祭のパンフレットを見つめながら唸っている。
「なに見てんの?」
隣に座る西木野さんが気になって覗き込む。
「パンフレットに書いてある探偵からの挑戦状は知ってる…?」
「ああ、例の探偵の天才が考えた謎解きだっけ」
「それに挑戦しようかなって思うんだけど…」
そういえばそんなページがパンフレットにあったっけ。
僕も手元にあるパンフを確認してみよう。
…あった、これだ。
――――――――――
~Level1~
巨大なダイオウグソクムシから逃走して、目的の場所まで到達せよ。
鶯+筏=西瓜
装備+医術=〇〇
答えの場所に次の謎解き有り。
――――――――――
なるほど、まさに謎解きだ。
でもなんでダイオウグソクムシ?
「私はこういうの解けたためしがないんだよなぁ」
西木野さんは考える前から諦めていた。
「うーん…ミステリー小説好きとして、どうにか解きたい…」
対して木蔭さんは真剣だった。
僕も少し考えてみよう…
「…あ、分かりました」
「どうやったの…?」
「ヒントはダイオウグソクムシを無視することですよ」
「…」
木蔭さんは少し考えてからハッとする。
「なるほど…じゃあ答えは!」
「恐らく美術室です」
この謎解きの答えを読む限り、次のお題は美術室にあるはずだ。一番簡単なレベルだけど謎が解けると爽快だな。
「最後まで解けるか分かりませんが、行ってみます?」
「うん、西木野さんも行こう…!」
僕と木蔭さんは勢いよく立ち上がる。
「あんたら意外と気が合うんだな…まぁ暇だし付き合うよ」
西木野さんも苦笑しながら重い腰を上げた。
※
こうして僕らは学園祭を回りながら、探偵からの挑戦状に挑んだ。西木野さんは謎解きには興味なさそうだったから写真を撮ったり食べ物の出店に行ったりしてる。
それにしても…平凡な僕が女子と一緒に学園祭を回れるなんて、入学した時は思いもしなかったな。
「なんだか嬉しい…」
次の目的地に向かう途中、木蔭さんはぽつりと呟く。
「影の薄い私が友達と一緒に学園祭を回れるなんて、入学した時は思いもしなかった…」
僕とまったく同じ気持ちだ。
影の薄い木蔭さんと平凡な僕…意外と接点が多いのかも。
「出会いなんてほとんど運だからなぁ」
西木野さんは豚串を食べながらそう話す。
「引き合わせてくれた五十鈴さんに感謝だな」
「そうですね」
「うん…」
なんだかエモい空気になったその時、校内に14時を報せるチャイムが鳴る。
「あ、西木野さん。そろそろ五十鈴さんと合流した方がいいですね」
「もうそんな時間か」
僕らは総務委員として午後に行われるイベントの写真撮影に行かなければならない。確かイベントは女優やアイドルが参加するファッションコンテストだ。
「あ、じゃあ私は一人で謎解きしてるよ…」
そう言って木蔭さんは離脱しようとする。
「良ければ木蔭さんも一緒に行きませんか?」
「え?」
「総務委員は特等席からカメラ撮影が許されてるんですよ」
「でも…私は部外者だよ」
確かに本来なら一般生徒を特等席に入れてはいけない。何といっても華岡の天才による大舞台だからね。
「別にいいだろ、一人くらい」
そこで西木野さんが後押しに加わる。
「どうせ木蔭さんの影の薄さなら誰にもバレないって」
「それはそうだけど…」
「それに一緒に来てくれたら五十鈴さんも喜ぶぞ~」
「…」
木蔭さんはその事実を受け入れるのにしばらく時間がかかったけど、最後は自信に満ちた表情で頷いた。
「じゃあ、一緒に行く…!」
こうして五十鈴さんを入れた四人で、多目的ホールのイベントを観に行くことになった。




