97 学園祭②
うちのクラスの出し物、猫カフェに到着した。
「にゃ~」
教室には猫宮さん家からやってきた十数匹の猫たちが自由に寛いでおり、内装もあってとても学校の中とは思えない見事な猫カフェに仕上がっている。お客さんもそこそこ入っていて、みんな猫の可愛さに癒されていた。
「ご注文の猫カステラで~す」
喫茶店のメニュ―は猫の形をしたベビーカステラが主役で、甘いものに合う紅茶やアイスコーヒーをお手頃価格で味わえる。
大繁盛とまではいかないけど、いい感じで営業してる。
「あ、五十鈴さんだ」
すると教室にいた星野さんたちが僕らの存在に気付く。
「ほらほら、みんなも猫耳つけて宣伝するにゃ」
星野さんの背後から猫宮さんが現れ、僕らに猫耳を押し付けてくる。
やっぱりこうなるよね…
「私と違って二人は猫耳似合うからいいよな」
西木野さんはつまらなそうに猫耳を装着する。
「僕は似合いませんけどね」
「……」
僕と五十鈴さんもしぶしぶ猫耳を取り付けた。
恥ずかしいけど、クラスみんなでやってるからまだ耐えられる。
「五十鈴さん!」
すると他の女子たちが集まってきた。
「このあと暇?一緒に模擬店回ろう!」
「みんなで行こうって話になったんだ~」
「総務委員は忙しくないんでしょ?」
星野さんと朝香さんを含める女子数人に囲まれる五十鈴さん。
「……」
面食らった様子の五十鈴さんはこっちに目を向ける。
「自由時間だから好きにしていいよ」
「楽しんできてください」
僕と西木野さんは迷わずその背中を押した。
面識のないクラスメイトばかりだけど、星野さんや朝香さんも混ざってるなら安心だ。もう僕が居なくても一人でやっていけるはず。
「う、うん……」
五十鈴さんは静かに頷いて、クラスメイトたちの輪に入って行った。
※
「あれ、木蔭さんは行かなかったんですか?」
五十鈴さんたちを見送った後、木蔭さんが一人教室の隅で猫と戯れているのを発見する。
「集団行動は苦手なんだ…影が薄くて忘れ去られるから」
「まぁ…気持ちは分かります」
僕も没個性だから大人数になると存在感がなくなるんだよね。今までは五十鈴さんグループに混じる唯一の男子だから目立ってたけど。
「それにしても五十鈴さん成長したな~」
暗くなってる僕らを余所に、西木野さんはしみじみと呟く。
「そうですよねぇ…」
まだ誤解は解けてないだろうけど、ついに五十鈴さんはクラスメイトと打ち解けることに成功した。これも本人の努力の賜物だ。
「二人共、五十鈴さんの保護者みたい…」
そんな僕らを見て木蔭さんが微笑む。
「私はそれほどじゃないけど、園田は寂しいだろ?五十鈴さんが独り立ちするのは」
西木野さんは意地の悪い笑みを浮かべている。
確かに五十鈴さんが成長すれば僕と話す機会は極端に減るだろう。元々あっちは高嶺なんだから、平凡とは住む世界が違いすぎる。
それでも…悔いはない。
「いえ、五十鈴さんに友達が増えるのは喜ばしいことですよ」
「ふーん…」
「それに五十鈴さんのおかげで、西木野さんたちとも話せるくらい仲良くなれましたから」
男子からは嫉妬されたりしたけど、五十鈴さんのおかげで増えた繋がりはたくさんある。まぁ結果オーライだ。
「園田は私らに囲まれてハーレム状態だからな」
「いや…ハーレムではないですよ」
「こうして両手に花で学園祭を過ごせてるし」
「…」
言われて見れば…今ってすごい贅沢なシチュエーションかもしれない。五十鈴さんグループとばかり関わって感覚が麻痺してたけど、僕ってかなり贅沢な学校生活を送ってる?
「他に女がいるからって、五十鈴さんをほっとくなよ」
呆けてる僕を見て西木野さんは鼻で笑っている。
「五十鈴さんと学園祭で遊ぶ時間くらい作ってるんだろうな」
「…いえ、作ってないです」
今回はクラスメイトとの交流を第一に考えて、五十鈴さんとは距離を置こうかなと思って何も約束してなかった。
「いやいや、遊ぶ約束くらいしとけよ」
「絶対に園田くんから誘うべきだよ…!」
そしたら西木野さんと木蔭さんに勢いよく詰め寄られる。
「は、はい」
勢いに押されてそう返事したけど、今の五十鈴さんにそんな暇あるかな?そもそも僕の相手なんて学園祭が終わった後でもいいんだし…




