94 学園祭準備期間➂
五十鈴さんのクラスの学園祭の準備は順調に進んでいた。
「料理のレシピは私に任せて~」
「宣伝用のポスターはこれでいいかな?」
「内装は私が完璧にデザインしよう」
クラスメイトのみんなは出し物の準備に全力だ。
たとえ自分の長所を生かせなくても、天才の行動力と集中力はやはり別格。驚くほどの速さとクオリティで猫カフェは完成に近づいていた。
「……」
そんな周囲の熱意に感化されて、五十鈴さんも行動的になっていた。仲間が作業で困っている時も率先して手伝いに行った。
「あ、ありがとう五十鈴さん」
「……!」
まだ声をかける勇気はないので、日本語不自由という誤解は解消されていない。それでも五十鈴さんは頑張っていた。
その姿勢を見てクラスのみんなの五十鈴さんを見る目も変わる。お嬢様に手伝いは任せられない…そんな誤った考えはいつの間にか解消されていた。
「五十鈴さんって好きな食べ物ある?」
「ねぇこのポスターどう思います?」
「この飾り一緒に取り付けよう!」
クラスの積極的な女子たちもこれを機にぐいぐいと距離を縮めようとしていた。
「……!」
五十鈴さんの表情は相変わらず硬いままだが、いい感じでクラスに馴染めている。
※
そんな五十鈴さんの姿を園田くんは遠目から観察していた。
(ようやくですね…五十鈴さん)
学校生活が始まって半年以上過ぎて、五十鈴さんはようやくクラスメイトと関わりを持てた。まだ少し拙いが目覚ましい成長と言える。
「あ、園田くん」
すると園田くんは準備の仕切をしていた池永くんに呼ばれた。
「予算のことで相談したいことがあるんだ。この資料を見てほしい」
「うわ、かなりギリギリだね」
「でもここはどうしても拘りたいんだ」
「うーん…予算を増やせればいいんだけど」
二人が悩んでいると盗み聞きしていた城井くんが間に入る。
「噂によると出し物のクオリティによって追加予算が可能みたいだよ」
「そうなの?」
「うちのクラスには五十鈴さんもいるし、出し物としての水準も高いからいけると思う」
「なるほど…」
そんな会話をしていると他の男子たちが集まってきた。
「予算増やすなら装飾費も頼む!」
「任せたぞ園田!」
「五十鈴さんの名前を前面に押し出してけ!」
「り、了解…」
男子たちの圧に押される園田くんだが悪い気分にはならなかった。
これまでずっと男子たちから嫉妬の目を向けられていたが、その見方も徐々になくなりつつある。元々男子たちにいじめをするという趣味はなかったのだ。
※
「ふむ」
西木野さんは腕を組んでクラスのみんなを見渡す。
(クラスがまとまってきたな…まだまだ及第点だけど)
最初は五十鈴さんを巡っていくつかのグループが妙な企てをしていたが、今は学園祭という一つの目標に向かって団結している。
バラバラだったクラスがついに一つになれたのだ。
「さて、私もここから本腰入れますかぁ」
西木野さんは軽やかな足取りで五十鈴さんの元に向かった。