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最初の出会い □




 二月のまだ肌寒い時期、妹が交通事故に遭って入院した。


 怪我の方は幸いにも大事には至らず、妹は病院に隔離されていても元気いっぱいだ。


「はいよ、お見舞いのアンポンマングミ」


「待ってました!今度こそ開封タイムアタック世界記録を目指すぞ~」


「どんな競技だよ…」


 この通りである。

 兄として寂しがっている妹の見舞いに行くのは構わないんだけど、僕は今年から高校生。それも通うのは名門校である華岡学園だ。


 この僕、園田庭人(そのだにわひと)が目指すのは平穏な学生生活だ。


 外見、性格、能力も特質すべきところはなし。そんな平凡な僕が名門校に入学できたことは嬉しいけど、期待よりも不安な気持ちの方が大きい。平穏な学生生活を送れるようしっかり準備しなければ。


「そうだお兄ちゃん。この病室は窓から中庭が見えるんだよ」


「へぇ~」


「それでね、前にすっごい綺麗な女の子が見えたんだ!」


「女の子?」


「うん!絵に描いたような美少女!」


 病院に入院する病弱美少女か…どこかの物語に登場するヒロインみたいだな。


「ふーん……じゃ、もう帰るぞ」


「…中庭に行くの?」


「行かないよ」


 そんな美少女が実在したとしても、僕みたいなモブじゃどうしたって関わり合えない。会話をすることさえおこがましいというもの。


 ………


 でも、一目見てみたいかも。

 ちょっと中庭を覗いてみるか。





 妹の言う通り、病院の一階には広い庭スペースが設けられていた。

 緑の草木は造花ではなく本物のようだ。白い噴水に白いベンチ、石畳の装飾もしっかりしていて、どこかの貴族がもつ庭みたいな雰囲気だ。たまに聞こえる鳥の鳴き声は……録音した音がリピートで流れてるだけか。


「外に出れない患者からしたら嬉しいスペースだな」


 僕は適当に庭を散歩してみる。


 美少女は………いない。


 そろそろ夕食の時間だし、患者はもう病室に戻ってるのかな。


 コツン


「いて」


 頭に何かぶつかってきた。

 全然痛くないけど、なんだろう?


「紙飛行機…?」


 それはメモ帳で作られた紙飛行機だった。

 何処から飛んできたんだ?


 辺りを見回すが、中庭には僕しかいない。

 ってことは病室からか?


「…」


 病棟を見上げると、壁に並ぶ窓の一つから一人の女の子が顔を覗かせていた。


 その少女は、一目で妹の話していた美少女だと分かった。

 透き通るような白い肌、夕日に煌めく薄い金色の髪、綺麗に輝く碧眼………あの少女を美少女と呼ばずに誰を美少女と呼ぶ。


 すごい、本当に実在したんだな。


「……!」


 そんな儚げな美少女だが、何故か慌てた様子だ。腕でバッテンを作り僕に向けてジェスチャーを送っている。


 何がダメなんだ?

 僕は何も気付かず拾った紙飛行機を開いた。




 …お世辞にも上手とは言えないクマの絵が描いてあった。




「……!」


 窓の少女は顔を赤くして、手で顔を覆っている。もしかしてこれを見て欲しくなかったのか?だとしたら悪いことしちゃったな…


「…」


 僕は近くのベンチを台にして紙に文字を書き込み、再び紙飛行機に戻した。


「さて…」


 目標地点は三階にある彼女の病室。ここは病棟に囲まれた中庭だからほとんど風は流れていない。僕のコントロールが正確なら真っ直ぐ飛んでくれるはず。


「よっ」


 僕は少女のいる病室の窓に向かって紙飛行機を飛ばした。


「!」


 少女は飛んでくる飛行機にあたふたしつつも、両手を広げてパシッとキャッチしてくれた。


 我ながら良いコントロールだ。


 別に大したことは書いていない。「ごめんなさい、クマ可愛いですね」と謝罪しつつクマの落書きを評価しただけだ。


「……」


 紙飛行機を開いた少女は呆気に取られていた。


 さて、帰ろう。


 これ以上ここに居座っていても気味悪がられるだけだろうし、少しでもあの美少女と文通できただけでも僕は幸せ者だ。











 これが、少女との最初の出会いだった。











挿絵(By みてみん)

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