ほんのひとかけら
雪が降っている。
赤い大地を包みこむように。
頬に流れる涙のように、降っている。
…迎えが来た。
次々と、仲間達が運ばれていく。
みんな、とても安らかに眠っている。
家族を待たせている者、
恋人を思い焦がれていた者、
ここで眠るのを誇りに思う者、
使命を全うし、燃え尽きた者、
ここでは、そんな色々な人たちが生きていた。
飛び交う銃声、響く爆発音、そこら中にこびりついた、人の想いが、雪の中に埋もれていく。
さっきまで命のやりとりをしていた。とは思えない程今では静かになっている。
だが、周りを見てみれば、残された物達がここで死人が出たと、数えきれない涙と血が流れたと、建物が物語っている。
物には口が無いのに、話すことができないのに、今私は建物の声を聞いているようだ。
…頭に弾を食らったせいか、おかしくなっているな俺
ここにはもう誰もいない。みんな行ってしまった。
この白い街には、人がいない。
…みんな、瞳を閉じている。
………私は、どんな顔をしているのだろう。
もう血が流れない私でも、涙は流していてくれと、願う。
ふとこの街を散策したくなった。
命を奪った人が、命を奪われた人の供養に行くとは。
そう思いながら、先に進む。
ここは…この街で俺が最初に来た所だな。
ここから銃声が鳴り始めたのか…こんな、何の変哲もない所から…
ここももう雪が積もってきているな…
…先に進もう。
ここは、あいつが眠った所か…
戦場にいる時だけは、銃を握っている時は、人が倒れていく事に慣れていると思っていたが…まだまだだったのか。
無いハズの目頭が熱くなってくる。
…あいつ、とても悔しそうだったな。
後で俺もそっちに行く。
……老若男女問わずに殺せ、か。
まったく、上の人たちは人の心が無い。目の前で泣いている子供を撃つ事が…どれ程の所業かを知らないのか…?
怒りがこみ上げない自分に反吐が出る。
成程、死人に感情は無いということか…
親子を撃った…俺はここで…何も抵抗しない…親子を…
贖罪を果たせずに死ぬとはな…
今更遅いか。
どこに行っても瓦礫や雪ばかりの中、目の前に瓦礫が崩れてきた。
これは…似顔絵…か。
がびょうが刺さっている…
こんな物、悪人に見せないでくれ…
呆気なかったな…あんな簡単に死んだのか、俺は。
いつの間にか、俺は自分が眠りについた所に来ていたらしい。そして、この場所で自分の最期を思い出した。
どうか許してくれ…香…将太…こんな夫を…こんな父を…どうか…
しばらくうずくまってから、俺はその場所を後にした。
雪が勢いを増してきている。
向かい風に吹かれながら、街から去る時に、ここではない遠い所に向かって私は言った。
『メリー、クリスマス。』
…この声を聞いた人はいないだろう。
さて、家族に言いに行こう。
こんな所で言っても意味は無いだろう。なのに、何故俺はここで言ったのか…
まるで体が浮いているような気分だ。
自分で付けた足枷を頼りに、俺はこの街を去る。