03 決定権は料理人にあり
魔猪か渡り鳥かの最終ジャンケンで、なかなか決着がつかなかった。
街門前で恥をかき続けたくないヒロが出した「先に狩った獲物が今日の夕食です」との折衷案は即座に受け入れられ、食べたい肉に集った面々で狩りに向かったのだ。
「渡り鳥は不利だよなぁ」
「弓と魔法が魔猪ですからね」
ソロリソロリと近寄れば、同じ速度で距離をあけられる。駆け寄って槍や剣で突こうにも、縞柄鳥はいっせいに空へと飛び立ってしまうのだ。
コズエは恨めしそうに、ヒロは苦笑いで、コウメイは負けを受け入れたすっきりとした表情で、手の届かぬ空を見上げている。
「魔猪で何作ろうか?」
「ミルフィーユ鍋じゃないんですか?」
「トンカツも、ソーセージも、ステーキもできるぜ?」
コズエは目を細め、疑うようにコウメイを振り返った。
「アキラさんが珍しくお肉を食べる気になってるのに、他のメニュー作れます?」
できるわけない、とヒロの表情も語っている。
コウメイはバツが悪そうに顎を掻いた。
「ミルフィーユ鍋、嫌いじゃないですし、大丈夫ですよ」
「俺はシュウさんが爆発しないか心配です」
彼は初回で負け暴牛を諦めている。トンカツあたりを希望して魔猪狩りに参加したのだろうし、とヒロは苦笑いだ。
「メニューは料理人に決定権があるんだ、諦めてもらうさ」
コウメイはそう言って、帰りに玉菜をいくつ買うか考えはじめた。