20 久しぶりに弟子をとった
魔法使いギルドから依頼された大量の色玉作りで忙しいリンウッドの元に、義眼のスペアを手にしたエルフがたずねてきた。
「いろいろと言いたいことはありますが、まずはこの説明文の解説をお願いします」
「……字が読めないのか?」
「読めますよ。でも専門用語が多すぎます」
取り扱いや施術について、一通り目を通し理解はしたが、自分の解釈で正しいのか自信が持てないのだとエルフが言った。
「色玉の設計書を読めるのなら問題ないはずだ。灰級にも理解できる内容だぞ」
「当たり前に試験を受けて昇級した魔術師ならそうかもしれませんが……」
エルフの吐いた弱音が意外すぎて、驚いたリンウッドの声は少しばかり尖っていたかもしれない。エルフは視線を避けるように目を伏せ、悔しそうに唇を噛む。
「私はかなり変則的なので……私の解釈で正しいのか教えてもらいたいのです」
ミシェルが特例で白級の魔術師証を与え、アレックスによって橙級に昇級させられたが、彼自身は正式に魔術を学んだことはない。そう伝えられたリンウッドは首を傾げた。
「お前、歳はいくつだ?」
「十九です」
「……お前、そんな雛だったのか」
眉間にしわを寄せたリンウッドは、ガシガシと頭を掻いて大きく息をつく。一番の年長であるエルフが、その経験と知識で人族や獣人を導き支えていると思っていた。だがエルフがもっとも幼く無知だというのだ、思っていた以上に三人の立ち位置は不安定なようだ。
「色玉の設計でわからない部分はなかったのか?」
「数ヵ所ほど……ここと、ここですね。自分なりの解釈で試作品を用意して森で使い、修正はできましたけど」
差し出された羊皮紙の図面を指差しながら、エルフは解釈のズレをどのように修正したのか説明する。
「独学にしてはなかなかだな」
「ギルドには読み切れないほどの魔術書がありますから」
幸いにも知識欲の赴くまま書庫の本を読みあさったおかげで、不足していた基礎知識を埋められているとは思う。だがあくまでも独学で得た知識だ、それが正しく理解できているのかはわからない、と彼は自分の無知を正直にさらけ出す。
「義眼の施術は、色玉とは違います。失敗したら修正してもう一度というわけにはゆかないんです」
コウメイの命を使って検証はできない。絶対に失敗したくない、そのためにはわずかな疑問や間違いはそのままにしたくないのだとエルフが訴えた。
強い決意を持った銀の目は突き放せなかった。だが説明書きは、リンウッドが素人にもわかるように記したつもりのものだ。それ以上に簡単なものを要求されても正直難しい。どうしたものかと思案する彼は、エルフのベルトにつけられているアミュレットに気づいた。
「そいつは誰が作ったんだ?」
銅のプレートに淡い赤魔石を埋め込んだアミュレットだ。作りがつたなく、効果もかなり低い。
「私です。リリーさんからいただいた設計書を参考に自作してみましたが、思ったような効果が現われなくて。検証のために身につけています」
それを聞いたリンウッドは、これはちょうど良い素材だと気づいた。アミュレットの正しい製作過程を経験すれば、知識だけでなく技術の基礎もたたき込める。義眼の施術説明に対する疑問も解消できるようになるはずだ。
リンウッドは彼にアミュレットの設計書をこの場で書けと迫った。まずは知識と記憶の検証だ。エルフは差し出された羊皮紙に、迷うことなく文字を書き連ねる。
「アキラといったか、基礎がないというが悪くはなさそうだぞ」
丁寧な文字で、わかりやすい注釈が書き加えられた設計書を読んだリンウッドは、これは教え甲斐がありそうだと少しばかり楽しくなった。




