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18 秘密のキノコ狩り



 食に貪欲な彼らは、食べられそうな食材を探すことにも熱心だ。アキラが魔法使いギルドの仕事で狩りに出られないときでも、彼らは森で見つけた食材を収獲して帰る。


「ムカゴ、見つからねーなー」


 王都の森で食べた茎芋の味が忘れられないシュウは、森に入るたびに探し回っている。


「バモンがありますよ。採って帰りましょう」


 干し柿の手順で簡単に渋いバモンを美味しく食べられるようになってからというもの、サツキはドライフルーツ作りにハマっている。


「それより解体手伝ってくださいよ」


 ヒロはしとめたばかりの魔猪を処理していた。一人でもできなくはない作業だが、汚れる仕事は手伝って欲しいものだ。

 本日の猟果は魔猪と大黒蜘蛛の糸袋にゴブリンが三体。帰りにバモンを荷袋いっぱい収獲すれば終わりだ。その帰り道、彼らは薬草採取の新米冒険者らを見かけた。


「あった! 見つけたよ、薫香茸だ」


 古木の根元を熱心に探っていた少年の手には、マツタケによく似たものが握られている。


「これ一本が、暴牛くらいの値段で売れるんだぞ」

「大儲けだーっ!」


 少年らは辺りのキノコを根こそぎ採取すると、弾む足取りで街へと帰っていった。


「薫香茸って、確かとても美味しくて高価なキノコでしたよね?」

「マツタケみたいなのかな」

「マツタケ、食いてーな」


 彼らは食に貪欲なのである。少年らが採取していたあたりを中心に、高級キノコを探しはじめた。だが見つかるのは、黒くて小さなキノコに、白くて細長いものや、茶色くて笠が丸いもの、笠の大きくて肉厚なもの、赤と緑の毒々しい色合いや、エリンギのような太いものまで、多種多様なキノコを発見したが、薫香茸らしきものは見つからない。


「さっきの子たちが全部採っちゃったみたいですね」

「残念。でもこれだけたくさんキノコが収獲できたんだから十分ですよ」

「けどマツタケ食いてーよなー」


 一本が暴牛一頭と同じかそれ以上の値で取引される高級キノコだ、一度くらいは味わってみたい。


「……あ、あれ、そーじゃね?」


 シュウが少し離れた枯木の根本にそれらしきキノコを見つけた。たった一本だけ生えているそれを採ってサツキとヒロに見せる。


「あの子たちの持ってたのに似てますね」

「見た目は完全にマツタケですよ」

「当たりだよな?!」


 宝探しで一番のお宝を見つけ出した興奮に三人は破顔する。


「マツタケ料理っていったら、マツタケご飯……米ねーじゃん!」


 どーやって食うんだよ?と慌てるシュウ。


「土瓶蒸しとか、酒蒸しとかでしょうか」

「網焼きとか、お吸い物なんかも」

「この一本を六人で分けるの、無理だよな?」


 それほど大きくない薫香茸だ、一人あたり薄っぺらい一枚というところだろう。


「ここで食って帰ろーぜ」

「シュウさん、それはまずいですよ」

「黙ってりゃバレねーし、ダイジョーブだって」

「みんなに内緒はよくないですよ」

「サツキちゃんだって木苺をこっそりつまみ食いしてたし、ヒロも魔猪肉の一番美味いところを昼飯に焼いてたじゃねーか」


 狩りの合間の役得を指摘された二人は、気まずそうに視線を反らした。


「責めてるわけじゃねーよ。薫香茸も役得ってことにしようぜ。他の美味そうなキノコはちゃんと持って帰るんだし、な?」


 なかば脅すようにして火を焚き、シュウは薫香茸を三つに割いて串に刺した。パチパチとした火に炙られ、薫香茸の水分が表面に浮き出て何とも言えぬ良い香りが漂いはじめた。


「スゲーいい匂いだ」

「……まさに、マツタケですよ」

「お兄ちゃん、ごめんなさい」


 三人の喉が鳴る。

 サツキが塩を取り出しパラパラとふりかけた。


「「「いただきますっ」」」


 ぱくり。

 ドサ、ドサ、ドサ。

 一口で薫香キノコを食べた三人は、口いっぱいに広がる薫香としゃきりとした歯ごたえを味わった次の瞬間、仲良く昏倒したのだった。


+++


「……いい年齢して、拾い食いか」

「「「ごめんなさいっ」」」


 夕刻になっても狩りから戻らない三人を探しにきたコウメイとアキラは、森で倒れている妹たちを見つけて慌てた。魔物に襲われた様子はないのに、揺すっても叩いても目覚めない。彼らに錬金薬を使用し、目覚めて事情を聞けば眠りキノコのつまみ食いが原因だというのだ。心配が突き抜け怒髪天を衝いたのも当然だろう。


「野生のキノコ類は難しいんだぜ。調べもせずに食うのは命とりになる。気をつけろよ」


 アキラに土下座する三人の脇で、コウメイは手早くキノコの選別をすませた。


「今日の夕飯はキノコ鍋にしようぜ」


 大半が毒キノコだったのはお約束か。


「ごめんなさい、キノコはやめてください」

「スミマセンでした、もう迂闊なことはしません」

「サーセンっ、肉がいいですっ!!」


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