16 露天市の日常 コズエ
コズエとサツキの二人で定期的に市に店を開くようになってからというもの、それまで縁のなかった街の女性らと語り合う機会が増えた。
「赤い花の飾りを増やしてほしいな」
「黃と緑の布で、パッチワークのベルトを作ってもらえない?」
「このバッグ、もう少し小さいのは作らないの? 子供にはちょっと大きくて」
女性らからこの世界の服飾の決まりや、流行を教わることも多い。
「一月に入ったら、もう少し豪華な花飾りを増やしたほうがいいわよ」
「豪華っていうと、この辺りの感じかな?」
「この一番立派なの、これをもう一段豪華にするといいわ」
彼女が指したのは、客引き用に作った豪華絢爛なものだ。普段使いして不自然でないのはアキラくらいだろうか。これよりも派手にと言われたコズエは、半信半疑に視線で問いかける。
「時祭りが控えてるから、大丈夫よ」
終わりの日の夜に開かれる祭りで着飾るために、一月くらいから街の女性たちはドレスや装飾品を探しはじめるのだそうだ。
「コズエの花飾りはドレスを飾るのにも使えるから、手先の器用な女の子はみんな狙ってるわよ」
「私たちも買いたいの、期待してるわ」
なるほど、お祭りのためなら多少派手な飾りのほうが需要があるかもしれない。工夫次第でたくさん売れそうだ。
店を閉めたコズエは、さっそく花飾りの作りためをはじめた。
「コズエちゃん、この花は小さすぎないかな?」
五枚の花びらで完成する小さくてシンプルな花を見て、サツキは首を傾げる。
「髪飾りにはちょっと地味じゃない?」
「ふふ、これはドレスを飾るのに使うんだよ」
コズエが「見て!」と取り出した古着の丸襟は、赤い小花で縁どられていた。
「わぁ、かわいい」
「この世界って自分で服を縫う人も多いから、パーツとして使ってもらえるようなのを考えたんだ」
使い方のサンプルとして、古着の何枚かを小花で飾っている。これを見せてすすめればたくさん購入してもらえるだろう。
「いい考えだと思うけど、細かな仕事すぎて割に合わないんじゃない?」
コズエの顔は疲労の色が濃く、サツキは心配そうだ。
「……そうなんだけど、楽しいから」
色違い、形違いと、五,六種類の花を交互に作っているので、それほど負担ではないのだとコズエは笑う。それにこの世界の製造業には、時給計算はそぐわないのだ。
「ちゃんと休憩とって、無茶は駄目ですよ?」
サツキ自身も同じように菓子作りや研究に没頭するので、コズエの気持ちが理解できるだけに、それ以上強く叱れなかった。
後日、眼精疲労と睡眠時間と引き換えに完成した大量の花パーツは、豪華なものだけでなく、シンプルな小花も飛ぶように売れた。
時祭りでは、コズエの花飾りでドレスを飾った女性たちを何人も見ることになるだろう。