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その話 いったい何割 ホントなの?

 ノエルが入れてくれた紅茶をひと口飲むと、茶葉の香りが柔らかくかつたっぷりと香った。

 味は香ばしくてフルーティで微かに甘い。


 美味しいーー。


 やっぱり美味しいわ、ノエルの紅茶。お菓子がすすんじゃう。

 リアム様が早く話してくださらないと食べ過ぎてしまいそうよ。


 リアム様は目を細めてカップの中の紅茶を見ている。

 何を考えているんだろう。


 ゆるりと風が吹いて空気が揺れた。

 あ、またため息。


「……この話は他言無用だ。いいな?」


「分かりました」


 頷いて真っ直ぐに見つめる。さあ、伺わせていただきましょう?


「最近、王宮内の備品の消耗が激しい。もっとはっきり言うと経費が増えている。増え方が異常だ」


 ふむ?

 話の邪魔をしないようにそっと紅茶を飲みつつリアム様の声に耳を傾ける。


「経費申請の内容を調べたら、いわゆる消耗品ではない物が例年よりも多くなっていたんだ。もちろん、消耗品ではないものも経年劣化で買い替えが必要になるし道具類は画期的な新製品が開発されれば導入することもある。費用対効果、というものを考えた上でだが」


 リアム様が「分かるか?」と言いたげにちらりと私を見た。

 はいはい。理解しておりますよ。

 こっくりと頷くと、「本当かよ?」と目が細められたわ。

 蔑むようなその視線、結構好きです。続きをどうぞ?


「……で、兄貴がもっと詳細な申請理由を調べさせたら、「紛失のため」という理由が圧倒的に多かったんだ」


 なるほど。


「紛失、つまりそれは「盗難」ではないかとお考えになられたのですね?」


 だから、ニナがカフェからスプーンを持ち出した話に反応した。そうですよね?


「そうだ。単純な「紛失」にしては多すぎるからな」


 ゲートの衛兵さんが言っていたわ。最近は特に厳しくチェックするように命令が出ている、と。あれは、紛失した物が持ち出されるのを防止するためだったのね。


 んんん? ということは、よ?


「盗んでも王宮の外には持ち出せませんよね?」


 転売目的だとしたら、王宮の外に持ち出せなくては始まらないでしょう?

 でも不可能よ。かの大泥棒が諦めたと言われるほどチェックは厳重なのだもの。


「その筈だが、現状を考えると何らかの方法で持ち出されていると考えるべきだ。そうでなければ説明がつかないからな」


「実際に流出しているという裏付けは?」


「ない」


 きっぱりおっしゃいますね。でも、その目は確信しているみたいに真っ直ぐで力強い。


 王宮外で売買されている痕跡が見つかれば、そこからも調査は進められるのでしょうけれど。


「紛失したとされている備品にはどんなものがあるのですか?」


「……食器や文房具類、タオル、アメニティグッズ、各職のユニホームや携行品」


 ずいぶんと多岐にわたるのね。一介の令嬢が入手できるものではなさそう。

 それに……。


「ユニホーム……?」


 リアム様は不機嫌そうに目を細めてふんぞり返った。


 ユニホームなんてどうやって盗むのかしら。スタッフを捕まえて「ちょっとそれ脱いで下さい」ってわけにはいかないじゃない?


 スタッフ同士なら同僚のユニホームに触れる機会があるかもしれないけれど……。え……?!


「まさか、横領……?」


 おっと。睨まれちゃった。

 そうよね。内部犯なんて不名誉なことこの上ないもの。身内に裏切られるなんてあってはならないわ。王宮の管理能力を問われてしまう。


「盗難にあったと疑われる物の数、被害額、期間を考えても単独犯とは考えにくい。それに、ここ半年は増えた一定量を維持している。つまり、なだらかに増えて、増え止まっているんだ」


 巧妙ね。少しずつ盗む量を増やして、すぐにそれとは気付かれないようにしているのね。


「前月と比較しても少し多いくらい。だが、一昨年と比べると差は歴然だ。増え止まった状態が続いていることから犯人たちは犯行をこのまま継続するつもりだろうと考えている」


 なるほど、そうね? つまり。


「犯人は王宮の中にいて、今も犯行を繰り返している」


 リアム様は体を起こし、テーブルの上に肘をついて両手を組んだ。そうして組んだ手の上に顎を乗せると、強気に瞳を煌めかせたの。

 如何にもなにかを企んでいそうな、腹黒さを隠さない笑み。どきどきします。


「だから、罠を張ったんだ」


 罠?


 首を傾げてしまう。

 リアム様はそんな私にふわりと微笑んだわ。それはそれは優し()()に。


 出た! キラキラ☆モード!!


「何としても犯人を捕まえたいのです。ルイーズも、手伝ってくれますよね?」


 キラキラしい微笑みは少年の頃なら天使かと見紛うほどよ。この笑顔を前に「否」と答えられるひとがいるかしら。


「分かりました……」


 リアム様はどの程度私を信頼しているのかしら。鉄壁の微笑からは全く本心は見えないけれど。


 私との婚約破棄を諦めてはいないでしょうね。


 リアム様に協力する。

 それ自体は何の問題もないわ。

 王宮内に泥棒が入り込んでいるのだもの。何としてでも捕まえて損失分を取り返したいと私も思う。


 将来リアム様と結婚することを考えたら、王宮の損害は他人事じゃないもの。


 不当に盗みで儲けようとする輩に対する怒りもあるしね。


 問題は……。


 改めて見つめると、リアム様はすぐににこりと微笑み返してくれる。天使のような微笑みの下で、あれこれ思考を巡らせている私を高見の見物といったところかしら。


 リアム様は私がどう動くのか、役に立つか、値踏みするつもりなのじゃないかと思うのよね。

 その結果リアム様にとって有用な人物と判断出来れば手駒のひとつとして妻にするのもやぶさかではない。でも、そうでなければ……。


 共に行動する時間が増えればその中で私に付け入る隙、つまり婚約破棄の理由となるものが見つけられるかもしれないじゃない?


 どちらかというと、そっちを狙っているのかもしれないわ。その過程で泥棒探しの役に立てばそれも良し。


 ね? リアム様のことだもの。最初の計画が失敗したからといって大人しく諦めたりはしないと思う。


 でも、そうとなったらこちらもね。

 本当は私に惚れてくだされば良いのだけれど、カメリアがいる以上それは難しい。


 だからせいぜい役に立って差し上げましょう。そして見直していただくわ。「あんな女」と侮ったこと、後悔していただかなくてはね。


 愛されなくても良いけれど、嫌われたら憎まれたり邪魔にされたりするのは嫌だもの。


 「私」の尊厳を守りたい。


 だから、本来の夫婦関係でなくても、出来れば仲良く過ごせる友人のようにはなりたいわ。

 幸いリアム様は三男で、子を儲けることに大きな意義は無いものね。


 それに、一緒にいる時間が増えれば、リアム様の隙も見つかるかもしれないわ。

 絶対に逃げられない「隙」が。


 天使のような微笑みに、月の女神と謳われた微笑を返す。


 負けないわ。

 王宮に入り込んだ泥棒探し、必ず役に立ってみせる。

 婚約破棄だけは絶対にさせない。婚約破棄は単に結婚の約束が反故なるってだけじゃないもの。


 罠、ね。いったいどんな罠を仕掛けたのだろう。

 でも待って。罠。

 リアム様がくれる情報にも注意が必要かもしれないわ。


 すべてを話してくれているという保証はないもの。

 私も罠に引っかからないよう、気をつけなくっちゃ!


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