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 手術が1ヶ月後に決まり、俺は約束通り梨花のそばにいた。

 一見、梨花はいろいろ吹っ切れたようで、手術に前向きに見えた。

 しかし、時々、不安の波が襲ってくるようで号泣することがあった。そのたびに俺は、梨花を抱きしめ頭を撫でてやった。


「大丈夫。ずっとそばにいるから」


 正直言言えば、梨花の震える体を抱きしめるたび、本当は俺も怖かった。もしかして、消えてしまうのではと考えてしまうのではないかと。だから、梨花への言葉は、同時に自分へと向かっていた。


 手術の前夜、特別に俺は病院に泊まらせてもらった。


「彰、今日までありがとうね」

「なんだよ、それ」

「なんとなくね。ねぇ、彰が好きだった私に戻れたかな」

「もちろん、戻ったよ」

「良かった」

「明日、頑張れよ」

「頑張るのは私じゃなくて、先生でしょ」

「先生だけじゃないだろ。お前もだろ」

「分かってる」

「もう寝ろって。早く寝ないとだろ」

「ねぇ、彰」

「なんだよ」

「ちゃんと戻ってくるって私も約束するから、手術が成功したら彰も約束果たしてよ」

「分かった。だから、もう安心して寝ろ。梨花が、眠るまでちゃんと手を握ってるから。ちゃんと睡眠とるのも大事だろ」

「うん、分かった。おやすみ」

「おやすみ」


 俺は、眠る梨花をずっと見ていた。


「大丈夫だ。きっと成功する」


 自分にも言い聞かせるように、俺は呟いた。



「みんな、行ってきます」


 梨花は、心配するみんなを励ますように笑顔を見せて、手術室へと向かった。

 手術室の扉が閉まるのを見ると、俺は椅子に座り込んだ。そんな様子をみて、梨花の母さんが声をかけてくれた。


「彰くん、手術が終わるまで時間がかかるわ。少し外の空気を吸ってきたら」

「大丈夫です。俺もここにいます」

「私達がここにいるから大丈夫よ。何か変わったことがあったらすぐに連絡するから。彰くん、寝てないんでしょ。ひどい顔よ」

「わかりました…。ちょっと外の空気吸ってきます」


 俺は病院の隣にある公園にやってきた。

 公園は、桜が満開だった。


「綺麗だな」


 ベンチに座りながら、風に吹かれ綺麗に舞う桜吹雪に俺は見とれていた。


「彰!」


 突然誰かに呼ばれた。振り返ると、なんと桜吹雪の中に梨花が立っていた。


「なんで、お前がここに」

「なんででしょう」


 梨花は、イタズラっ子のような顔をした。


「まさか」


 俺は青ざめた。


「あっ!違うから。死んでないから。まだ、生きてるから」

「じゃあ、なんだよ。もしかして、俺は夢でも見てるのか」

「そんな感じかな」


 そういうと、梨花は、こちらに歩いてきた。


「ねえ、背比べしようよ」

「今なら彰と私ならどっちが大きいかな」


 梨花は、前に立って俺を見上げた。


「彰、大きくなったね。身長いくつ?」

「188」

「そうなんだ。私はね」

「知ってる。181だろ」

「こわ~い。ストーカーなの?」

「バカ。あんだけ活躍すれば、そんな情報、誰だって目にするだろう」


 俺は軽く梨花の頭をたたいた。


「痛っ!まさか彰に上から頭を叩かれる日が来るとはね」

「俺も梨花の頭を上から見れる日がくるとは思わなかったよ」

「まあ、どんぐりの背比べができて、私は満足だよ」

「どんぐりって俺の方が明らかに高いんだけど」

「そうだっけ?」


 梨花は笑いながら俺に背中を見せて歩きだした。梨花の後ろ姿をみていると、突然不安になった。


「なあ、目が覚めたらもう会えないとか言わないよな」

「彰は、成功するって信じてくれたんでしょ。今は信じてないの?」

「もちろん信じてるけど、お前が夢になんか出てくるから」

「それは、すみませんでした」


そういうと梨花は1人歩き出した。


「さて、そろそろ彰は起きなきゃだよ」


 そう言ってこっち向いて笑った梨花は、花吹雪の中に消えて行った。


 やはり、公園のベンチでいつのまにか寝ていたようだった。ボーッとした頭を起こしていると、突然携帯が鳴った。


 俺はあわてて病院に戻った。

読んで頂きありがとうございます。

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