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高校で、俺は梨花との約束通り空手を頑張った。
空手で体が鍛えられるたびに筋肉だけでなく、遅れた成長期なのか身長も加速してどんどん伸びて行った。
そして、梨花はというと、入学当初からその活躍を新聞やテレビなどとりあげられていた。そんな梨花の活躍は、俺の励みになった。そして、どんどん梨花が綺麗になっていく姿を見かけるたびに、俺は焦った。
だから梨花の高校最後の大会を俺はこっそり見に行った。
梨花は、コートで輝いていた。
写真ではなく、実際に美しくコートを動き回る姿に、俺は改めて恋に落ちた。
その姿を目に焼き付け、俺は帰った。輝く梨花の隣に立つ為にも、俺はより鍛練に力をいれた。そして俺は、大会で高成績を修めることが出来た。
(やっと梨花の隣に立てる)
そんな時だった。
突然予想もしない連絡が入った。
それは、ちょうど寮で地元に戻る準備をしている時だった。
「梨花ちゃんが、入院したの」
母さんの言葉に愕然とした。
俺は、急いで教えられた梨花のいる病院に向かった。
病室につくと、梨花はベッドで点滴に繋がれていた。
「もしかして、彰?すごい!別人みたい」
そういう梨花は、青白くあの夏の大会の姿とはかけ離れていた。
「梨花、どうしたんだよ」
「あ~、ちょっとね」
そういうと、梨花は笑った。
梨花の母さんの話だと梨花の病は手術が必要な病だそうだ。そして、その手術がすごく難しいものらしい。
しかし、手術をしなければ完治はむずかしいどころか命の期限がついてしまうのだと辛そうに話してくれた。
俺は、毎日のように病院に行った。そして、日に日に梨花が、弱っていくのを感じた。
でも、梨花は、手術をずっと拒否していた。
「梨花、どうして手術受けないんだ」
「嫌だよ。だって、難しい手術だし、そのまま目を覚まさないかもしれないんだよ。こうやって彰と話すことも出来なくなるじゃん」
「手術だって、いつでも出来るわけじゃないんだぞ」
「分かってる。でも、手術する日が決まったら、その日が私の死ぬ日かもしれないなんて」
「梨花...」
「彰...。私、怖いよ。だったら、いつ死ぬか分からない今の方がいい」
梨花は、下を向いて震えている。
「成功するかもしれないだろう」
「失敗するかもしれないでしょ」
俺は、梨花の顔を上に向かせた。
「俺が困るんだよ。梨花には、生きてもらわないと」
「なんで彰が困るのよ」
「俺が、梨花を好きだからだよ。約束しただろう、強い男になって告白するって」
梨花は俺の言葉に潤んだ瞳で俺をみて微笑んだ。
「覚えてる。彰は、強くてカッコいい男になったよ。今聞かせてくれるの?」
「嫌だ。今の梨花には告白しない」
「なんで?」
俺の言葉に梨花は、悲しい顔をした。
「俺が好きになったのは、泣き虫だけど、いっぱい泣いたあとはちゃんと前を向ける梨花だ。今の梨花は、俺が好きになった梨花じゃない」
「そんなの無理だよ。こんな状況でどうやって前を向けって言うの?」
梨花は、また目に涙を浮かべた。
そんな梨花を俺は抱きしめ、昔のように頭を撫でた。
「手術、受けてくれよ。絶対、成功するから。お前は、死なない」
「そんなの分からないよ。私、怖いよ」
「俺がずっとそばにいるから。お前が怖くて泣きそうになったらまた、こうやって頭をなでてやるから」
腕の中で頷く梨花を俺はずっと抱きしめていた。
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