3
卒業まで、あと少しとなったある日のことだった。
「私、隼人くんに告白する」
梨花は、何故か俺の部屋で正座しながら宣言した。
「おっおう。頑張れ」
「そして、もう彰の前で泣いたりして、迷惑かけたりしないから」
そういうと、俺の目をすっと見た。
「突然どうした?」
「だって、もう卒業だし。それにもう彰に頼れないしね」
そう言うと梨花は微笑んだ。
「いろいろ自分で頑張りたいからね」
俺は、空手の強豪校に行くため、高校では寮生活が始まる。つまり、悲しくなるたびに、梨花が俺の部屋に来て泣くことはできなくなるのだ。
「告白って言っても駄目なの分かってるし。ただ何も言わないで終わりにするのは嫌なの。ただの自己満足。だから多分泣いたりしないと思う」
「大丈夫か?」
「もちろん」
俺は頑張るという梨花の背中を押してやるだけしか出来なかった。
告白の結果は、やはり駄目だったらしい。らしいというのは、直接聞いたわけではなく、隼人が梨花以外の女子と付き合いだしたという噂を聞いたからだった。
梨花は、あれ以来俺の部屋に来ることは無かった。というか、話すことさえ無くなった。
何故か梨花は、俺から逃げていた。
(何で、避けるんだよ)
卒業式の次の日に俺は旅立つことに決まった。
(けじめ俺もつけないとな)
俺は、卒業式の後、梨花を呼び出すことにした。
そして今、俺たちは公園のベンチで座って話をしている。
「なによ。家が隣なんだからわざわざ呼び出すことないでしょ」
「その隣なのに、俺をずっと無視してたのは誰?」
「それは、…」
「俺、明日、出発するんだ。だから、これお前にやるよ」
そういうと、俺は梨花に小さな包みを渡した。
「え?」
梨花は、包みを開けた。すると中から小さなくまが出てきた。
「高校でも、頑張れよ。ずっと応援してるから」
「ありがとう、頑張る。彰も頑張ってね」
梨花は、嬉しそうにくまを抱きしめた。
「あのさ。俺も、お前を見習って自分の気持ちをちゃんと伝えることにしたから」
「気持ち?」
俺は梨花の前に立った。
「梨花。俺、お前が好きだ」
梨花は、驚いて固まっていた。
そんな、梨花の様子に俺はふっと息を吐いた。
「まあ、気がついてないだろうなとは思ってたけどな。今は、弟みたいにしか思われてないだろうけど、俺も高校で空手を頑張るから。それでもっと強い男になる。そしたら、またお前に告白する。覚悟しとけよ」
俺の一世一代の告白に梨花は、突然笑いだした。
「お前、俺が真剣に言ってるのに」
「だってまた、後で告白するっから覚悟しとけって宣言されても何て言っていいか分からないんだもん」
「それは、そうだけど」
「私は、彰を弟だって思ったことはないよ。いつも彰に助けてもらってばかりだったよね。今日までありがとう」
「うん」
「強い男になった彰からの告白待ってる。私もかっこよくて綺麗なお姉さんになる予定だから、早めにこないと手遅れになるからね」
「分かった、頑張るよ」
俺たちは久しぶりに笑いあった。
読んで頂きありがとうございます。