1
俺たちは、学校帰り公園の近くを歩いていた。並んで歩いていると、突然、梨花が足を止めた。
「どうした?」
俺が不思議に思っていると、梨花は落ちていたどんぐりを一つ拾いあげた。
「ねえ、彰。どんぐりの背比べって知ってる?」
「似たり寄ったりって意味だろ」
「私が言いたいのはことわざの意味じゃないの。ことわざになるくらい、どんぐりってほとんど同じ大きさってこと」
「どんぐりの大きさがそんなに気になるのか?」
「いいなって思って」
「はぁ?お前何言ってるの?」
「背比べってほとんど同じくらいだからこそ楽しいじゃん。『私の方がちょっと大きい~。そんなことないよ、わたしの方が大きいもん』とか、私もやりたい」
「なるほどね。それは俺も分かるかも」
こいつは、葉山梨花、身長が中三にして175センチ。誰もが認める高身長だ。しかも、まだ成長期らしく日々ぐんぐん伸びているらしい。もちろん身長順ならぶっちぎりで最後尾だ。
ちなみに、俺、柳田彰は身長150センチ。男にしては低身長の分類だろう。ささやかに伸びているがあまり芳しくない。つまり、俺はいつも先頭だ。俺達は、生まれてからずっと互いにこの位置は変わったことはない。
「いいな~彰は小さくて」
「お前、けんか売ってるだろう。俺がどれだけ悩んでるか」
「いいじゃん、かわいい男子あきちゃん。この前の学校祭でした女装かわいかったよ。あき姫。私もかわいいって言われたいな」
「それなら、お前だって言われてるじゃん。女子の憧れカッコいい梨花王子だろ」
「私はかわいいって言われたいの」
「諦めろ。そんな巨木じゃ、かわいいは無理だな」
「うるさい!もっと縮めてやる」
そういうと、梨花は彰の頭をポコポコ殴った。
「いたっ。やめろよ。本当に縮むだろう」
「じゃあ、今度は、上に引っ張ってあげようか~」
「やめろよ」
俺は慌てて梨花から逃げ出した。
俺達の関係は、小さい頃から変わらない。
家が隣だからか、赤んぼうの頃から、ずっと俺たちは一緒だった。お互いに一人っ子だったこともあり、まるで兄弟のように育った。
「や~い、でか女!」
「お前ら、やめろよ」
「うっうっ彰…。みんなが梨花をでか女って…」
「ぼくが、やっつけてやるから大丈夫だよ。だから、梨花、もう泣かないで」
「なんだよ、彰。ちびのくせに生意気だぞ」
「うるさい!」
梨花は小さいころから他の子より大きく、俺は誰よりも小さかった。
しかし、体は、でかいくせに泣き虫な梨花は、いつも男子にからかわれては泣いていた。
泣き虫な梨花を俺はいつも助けていた。あいつは俺のずっと後ろに隠れているようなやつだったから、あいつを守るのが俺の役目だと思っていた。それは、妹を守る兄のような気持ちだった。
しかし、いつからだろう。あいつは、他のやつの前で泣かなくなった。
そして、大きくなるにつれてカッコいい女子というまわりのイメージ通りに生きることを選んだように見えた。
本当は、かわいいものが大好きで、誰よりも中身は女の子のくせに、学校ではそんな素振りはまったく見せなくなった。
いつからだろう。バレー部で活躍する姿は、まるで王子様のようだと言われるようになったのは。それは、他校の生徒まで見に来るくらいだった。
確かに、少女漫画の王子がリアルに現れたらあんな感じなのかもしれない。
「うっ...」
しかし、そんなやつが何故か俺の部屋に来て、お気に入りのかわいいくまのぬいぐるみを抱き締めて座って泣いている。