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夕凪の天使たち 2

 その夜、美咲の家のチャイムが鳴った。興味津々の美咲は母の後について玄関まで行った。扉を開くと、以前会った規則警部とその妻と息子が立っていた。

「いらっしゃいませ」

 おっとりした声で言う美咲の母の後ろから、美咲がひょこっと顔を出す。

「こんばんは、規則警部」

 美咲が挨拶をすると、警部は優しく微笑んだ。

「やぁ、美咲ちゃん。一週間ぶりくらいかな」

 美咲と美咲の母は、居間に規則一家を招く。美咲の父がソファから立ちあがって警部を迎え入れた。

「巌、ひさしぶりだな」

 美咲は、なかなか見せない父の懐かしむ表情を見て、なんだか嬉しくなる。

「お前こそ」

 美咲の父と規則巌が握手を交わした。母と共にお茶出しを手伝った美咲は、皆と一緒に居間のソファに座った。自然と会話の流れが父同士の学生時代の話、母同士の世間話になってゆく。なかなか口を挟めなく、つまらなくなった美咲は、先ほどから一度も喋っていない規則警部の息子と目が合った。美咲と同じくらいの年齢に見える。きりっとした顔立ちの、地味ではあるが容姿端麗な少年だった。

「あのぉ、規則警部の息子さんですよね? 名前は何ていうの?」

 美咲はニコッと笑って少年に語りかける。だが、少年はつまらなさそうな表情で美咲を一瞥しただけだった。数秒の間があって、やっと小さく口を開く。

「守」

「え? まもる、くん?」

 小さい声で聞き取れなかった美咲は聞き返す。その様子を見て、規則巌の眉が上がった。

「こら守! ちゃんとはっきり返事くらいしないか!」

 大きな威厳のある怒声が響き渡く。美咲の方がびっくりして謝りそうになってしまった。だが、守は蚊ほどに感じていないようで、そっけなく窓の外を見ている。

 美咲は少し腹が立ったが、頑張って守とコミュニケーションを取ってみる事にした。

「ねぇ、守くんは私と同じ高校生くらいだよね? どこの学校に行ってるの? 何年生くらい? クラブとか入ってるの?」

 弾丸のような美咲の質問攻撃に、守は明らかに迷惑そうな表情をした。だが、今度は守の母親が怒り出す。

「守、いい加減にしなさい、可愛いお嬢さんが話しかけてくれているのにその態度は何ですか!」

「まぁまぁ、うちの娘も遠慮を知らないので……」

 思わず美咲の母親がフォローに入る。

 守は面倒くさそうに首に手を当てて頭を少し倒しながら美咲を見た。

「明日から、私立E・T高校に編入する予定だよ。二年生で、クラブは入る予定は今の所は無いけど」

 やっと、会話らしい言葉を喋った事にも驚いたが、美咲はむしろ話の内容の方にもっと驚いた。

「嘘っ、私もE・T高校の二年生なんだよ! 偶然だね! 何組に入るの?」

 美咲は守の袖をグイグイと引っ張った。そんな美咲の行動に守は少し面食らっているようだ。

「F組……」

「あ、じゃあ私とは違うクラスだね。私は二年A組なんだよ」

「同級生だったのか。中学生かと思ってた……」

 守の言葉にひっかかるものがあったが、美咲は仲間が増えたような感覚で喜んでいる。

「そうか、美咲ちゃんはそういえば守と一緒の学校なんだったな。こんなんだが、うちの愚息をよろしく頼むよ」

 巌警部は美咲に頭を下げた。美咲はあわてて手を振る。

「いえ、私の方こそよろしくお願いします!」

「美咲ちゃんが居ればどんな悪い奴らも蹴りで退治できるね」

 巌警部の言葉に守以外の皆が笑った。美咲は顔を赤くしてうつむく。

 時間が過ぎ、そろそろお開きにする頃になって、守の母が美咲に近づいてそっと話しかけてきた。

「美咲ちゃん、守があんな態度でごめんなさいね。あの子、女の子とあまり喋った事が無いから多分緊張してるだけだと思うの」

 それを聞いた美咲は、ホッと胸を撫で下ろした。

「良かった、私、嫌われてるのかと思っちゃった」

 笑顔を向けられた守の母は、美咲の頭をなでてしみじみ言う。

「美咲ちゃんみたいな子が守の彼女だったらねぇ」

「えぇ?」

 美咲の顔が真っ赤になる。なまじ守が嫌いなタイプでもなかったので完全否定もできなかった。

「うふふ、迷惑だったらごめんなさいね」

 そう言って、守の母は巌の後について玄関まで歩いていった。

 玄関まで家族で見送りに行った美咲は、あらためて守をじっと見る。すっきりと整った顔立ちにキリッとしまった表情。見ようによっては絵本に出てくる王子様のようにも美咲には見えた。だが、見られた守は興味なさそうにプイとそっぽを向いてしまう。美咲は少し頬を膨らまして拗ねたが、相手には全然気付かれていないようだ。

 別れの挨拶をして、それぞれの家族が家に帰る。美咲は自室のベットに寝転がり、あらためて守の事を考えてみた。最近は減ってきたものの、美和に彼氏が出来た直後に連続で美咲に告白してきた男子達と守は少し違っていた。顔もそうだが、少なくとも美咲の相手に対する興味の深さが違う。

「なんか気になるなぁ……」

 なにげなく、美咲がつぶやいた。

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