ルミが担当する特殊な結婚式
わたしが行う特殊な結婚式とは、生き人と死人の結婚式だった。
まず、結婚式を行う二人のどちらかが死んでいるのが条件。
生前、結婚の約束をしながらも、何らかの理由で式を挙げられなかった人達への、特殊な儀式なのだ。
今回の場合、彼の恋人の女性は病気で亡くなっていた。
二人は結婚の約束をしていたが叶わず、しかしどうしても式を挙げたいという彼の希望を叶えるべく、わたしは動いていた。
本来ならば、死体となった彼女の体に黒いウエディングドレスを着せて、式を行うつもりだった。
死体の方は、生き人の方が火葬される前に何とか手に入れることも条件の一つ。
まあ今回は女性は身寄りのない孤独な人だったらしいから、簡単だったらしいけど。
そして生きている人の証として、『白い』タキシードを着た彼と彼女は、あの棺桶に入り、彼が自ら命を絶って終わり――になるはずだったのだ。
この結婚式はあくまでも『死んでも添い遂げる』ことが目的であって、結婚式を挙げた時点で未来は無い。
そう、死ぬことが目的での結婚式なのだ。
ミシナはそのことを、彼から知らされていなかった。
つまり彼は死ぬ意志は変わらなかったということ。
二人が入った棺桶は、こちらの方で埋葬する。
周囲の人々にはまあ、彼が何とか言っているだろう。
だから突然、行方不明になっても何の問題も起こらない。
ミシナも会社を辞め、結婚することを周囲に話していたのだ。
元々あまり好かれていないので、元の職場に顔を見せなくなっても誰も何も言わない。
彼も死ぬ前に、片付けなどはやっていただろうし、わたし達の仕事は式を終えた時点で終了。
もう何もすることはない。
だから冷静に報告書を書いて、父に提出する。
「……ヤレヤレ。やはりミシナくんは何も知らないまま、逝ってしまったか」
部長室でわたしと父は難しい顔をして、向かい合って座っていた。
報告書を渡しても、一応口で言って報告するのも義務となっている。
「でも彼も意地が悪いわよね。生きている人相手に結婚するなら、何もあの結婚式を行わなくてもよかったのに……」
「まあ彼は元々死ぬつもりでウチに依頼してきたからな。……しかし生きている人間が相手だと、後々に問題がいくつか出てくるだろう。今回はしょうがなかったとしても、少し条件を変える必要はありそうだ」
いつもなら変わることなんてないのに、今回は違った。
今後、あの特殊な結婚式を行う条件が少し変わると言っても、やらないワケにはいかない。
何せ求めて行いたいと言ってくる人はいるからだ。
「ところでルミ、仕事が一段落ついたことだし、今度の日曜日は家族で出かけないか?」
いきなり家族の話題に入らないでほしい……。
今までシリアスなビジネスの話をしていたのに……。
「ルナ姉さんがな、見たい映画があるそうだ。でも新しい彼氏のアオイ君の予定が合わなくて見に行けないらしいから、みんなで見に行こうと誘われてな」
そう言いつつ父は映画のチラシと招待券をテーブルの上に置く。
わたしと妹のルカにとっての伯母のルナは、見た目が何と十歳ほどの美少女だったりする。
しかし四百年以上は生きているお人で、かくいうウチの父だって三百五十年ぐらい生きているらしい……。
ちなみにわたしとルカの年齢は本物。
父とは先祖と子孫ほどの年齢の差があるので、もしかしたら母の前に結婚して子供がいるかもしれない。
けれど説明されたことがないので、わたしも深く聞かないようにしている。
そもそも見た目十歳の伯母が、見た目近い彼氏がいる時点で、何も言えなくなってしまう。
伯母はあの体のせいか結婚はしたことがあっても、子供はいない。
だからこそ、わたしと妹を可愛がってはくれているんだけど。
ウチの家系図はかなり複雑で、特殊だ。
知ろうとするならば、それなりの覚悟は必要。
でもわたしは仕事も覚悟もまだ中途半端。
知るにはもう少し、時間が必要らしい。
「うん、まあこの映画だったらいいわよ。でもルカは聞いてみないと分からないからね。何せ彼氏ができそうらしいし」
「何だとっ!? 姉のルミよりも先に恋人ができそうなのか!」
「驚くところ、そこぉ? って言うか、余計なお世話よっ!」
ルカは最近、これまた人ならざるモノでマミヤという青年と仲が良いらしい。
少し照れながら彼のことを話す妹は、本当に幸せそうだ。
しかしいろんな結婚を知っているわたしは、何となく応援する気にはなれない。
はてしてわたしが結婚する日と、血族の秘密を全て知る日、一体どちらを早く迎えるだろうか?
【終わり】