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特殊な結婚式

そしてとうとう結婚式の日がきてしまった。


行うのは深夜、招待客はいない。


場所はウチの会社が持っている、とある山奥にある教会。


でも教会と言っても、白い十字架を飾るような宗教的な所じゃない。


建物は白い教会の形をしているものの、中に飾られているのは黒い十字架だ。


「……相変わらずいつ来ても、不気味な所ね」


教会の控え室では今頃、新郎と新婦が着替えている頃だろう。


この時期、ここで結婚式を行う時はいつも天気が不気味になる。


闇の空に浮かぶ白い雲、血のように真っ赤に染まった満月、生ぬるい風は強く、空模様はすぐに変わってしまう。


山奥にある教会なので辺りに民家はなく、今は風にふかれた木々の音しか聞こえない。


わたしは髪を手で押さえながら、教会の中に入る。


教会は月の光を通したステンドグラスが美しくも怖くあり、ロウソクが灯りとなっている。


「こんばんは、ルミさん。今日も良い結婚式日和ですね」


「リュカ……。アンタぐらいなものよね。こんな天気を良いと言うのは」


わたしに声をかけてきたのは、この教会の牧師役をしているリュカという金髪の青年だ。


と言っても、わたしと同じ人ならざるモノなので、本当の年齢も正体もよく知らないんだけど。


わたしが父からこの仕事を頼まれるようになってから、会うようになった彼は、見た目は柔らかい雰囲気を持つ美青年。


しかしあんな結婚式を執り行う場所にいるのだから、もちろん普通ではまずない。


「いつかルカさんも結婚してしまうんだと思うと、悲しくて涙が出そうです」


そう言いつつ白いハンカチで目元を押さえる仕草をするのだから、一発殴りたくなる。


「白々しいことは言わないで。今日は仕事で来ているんだから」


「おや、本音だったんですけどね。しかし相手が代わるとは思いませんでしたよ。しかも生きた人ですね」


それにはわたしも同感だ。


「でもお互い、結婚したいという意志があるのならば、わたしもアンタも何も言えないでしょう?」


「ですね。私達も仕事ですから」


意味ありげにリュカはこの結婚式について、特に何の感情も抱いていないらしい。


まっ、それはわたしも同じだ。


仕事は仕事。


私情なんてはさんじゃいられない。


「……さて、そろそろ新郎と新婦が来る頃ね。リュカ、いつも通りお願いよ」


「かしこまりました」


今回の介添え人と付き人は、ウチの社員だ。


身内などは呼べない為に、こちらで用意をする。


ミシナと彼は幸せそうに、教会に入って来た。


ミシナは黒いウエディングドレスを、そして彼は白いタキシードを着ている。


本来なら、ミシナが着ているドレスは彼女が着るべきだったんだけど……。


まあ似合っているし、彼女はもう何も言えないからいいか。


結婚式は誓いの言葉までは普通に行われる。


……が、問題はここからだろう。


でもわたしにはもう何もできない。


教会の隅で、見守ることしかできないのだ。


誓いの言葉を終えると、牧師のリュカが動いた。


後ろを振り返り、足元に置かれて白い布を引っ張る。


すると今まで見えなかった物が、見えるようになった。


「かっ棺桶?」


ミシナが白い布をかぶせられていた黒い棺桶を見て、眼を丸くする。


「そうだよ。新郎と新婦は一緒にこの棺桶に入って、死んでも共にいることを証明するんだ」


「あっああ、そうなの……」


彼は嬉しそうに説明するものだから、ミシナはとりあえず納得したようだ。


棺桶は二人が入れるぐらいに大きく、金で縁取りされている。


そして黒い十字架は浮き彫りになっており、普通の棺桶とはまず違う。


ミシナは驚きながらも、リュカが蓋を開けた棺桶の中に恐る恐る入る。


続いて彼も入り、二人は棺桶に一緒に寝ている形になった。


リュカは彼に、金色の柄のナイフを手渡す。


「本来なら生きている方が自ら命を絶つのですが、今回は相手の方が生きていらっしゃるので、そちらの方もお願いしますね」


「えっ?」


「分かりました」


リュカの説明を聞いて、彼はナイフを受け取ると何の躊躇いもなく、ミシナの胸に突き刺した。


ぶしゅっと嫌な音と共に、ミシナの胸元からジワジワと血が滲んでいく。


「なっ何で……?」


驚愕の表情を浮かべたまま、ミシナは絶命する。


「今、逝くからね」


彼はうっとりしながらミシナからナイフを抜き取り、自らの胸に突き刺した。


「うぐっ……」


軽くうめいた後、すぐに彼も動かなくなった。


「……まっ、たまにはこういうのもアリでしょう。いつもなら、どちらかは死んでいるものなんですけどね」


リュカは軽いため息をつきながら、絶命した二人を見下ろす。


二人の死体が入った棺桶は、介添え人や付き人の手によってすぐに蓋を閉められ、教会の外へ連れ出される。


――これで結婚式は終了した。



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