ギルドマスターを襲う聖騎士団の男⑤
イバラーク(32)
農業ギルドのギルドマスター。
赤みがかった短い髪で身長が高くガタイも良いので農業ギルドより戦士ギルドのギルドマスターのほうがしっくりくる。
農業以外は何でも器用にこなす。
ティーヴァ(32)
元聖騎士団員。
くすんだ金髪に鋭い茶色の目。
その戦闘力は並外れており、明確な序列はないが聖騎士団の中でも三本の指に入っていた実力者。
イバラークは東門に向かっていた。
ガラにもなく緊張しているのがわかる。
生き残りがいるとは思っていなかった。
すべてが滅びたと思った。
全てを破壊したのだから。
自分を殺しに来たとアキータ達は言っていた。
なるほど、彼ならそうするかもしれない。
既に辺りは薄暗い。
もうすぐ夜の帳が落ち、顔の判別もつかなくなるだろう。
行き過ぎる人達はみな、家や宿に向かっているのだろう。
帰る場所があるのは幸せな事だ。
心落ち着ける場所、心安らぐ場所。
そんな場所が人の幸福を作る。
では、東門でイバラークを待つ彼はどうなのだろう。
全てを奪われ、失った彼は。
薄闇の中東門をくぐってみたが、彼の姿は無い。
イバラークは辺りをうかがう。
不意打ちを仕掛けてくるような男ではないのだが。
「いない、のか・・・・・・」
イバラークはがっかりしたような、ほっとしたようなそんな複雑な感情が渦巻いている。
このまま待つべきか、立ち去るべきか。
違う。
待つべきなのだ。
立ち去るという選択肢が出たのはイバラークの弱い部分がその選択肢を出したのだ。
イバラークは東門の壁に背を預けて目をつぶる。
どうせもうすぐ闇が濃くなってくる。
ならば視覚に頼らず気配をうかがっている方が正しく相手を察知できるだろう。
夜独特の静けさの中に、夜行性の動物達の声が混じる。
あれはカギテアカミミフクロウ。
夜のハンターだ。
あれはナルシストウサギ。
ウサギと付いているがネズミの仲間。
あれはカネナリムシ。
羽をこすり合わせて音を出すのだが、金属同士をこすり合わせたような不快音を出す害虫である。
あれは腹を壊して唸っている人間。
「ぅっ・・・んくっ・・・はぁああぅあ!?」
よし、帰ろう。
「誰か・・・・・・いるのか? ぅくっ!?」
「・・・・・・ティーヴァ、か?」
「イーヴル、アーク・・・・・・」
草葉の陰からティーヴァが出てくる。
顔色が悪い。
しかし、変わらずその眼光だけは鋭く、イバラークを射抜くように見つめている。
「全て消え去ったと・・・・・・思っていた」
「やはり、貴様の仕業か。危うく俺も貴様に消される所だったよ」
「・・・・・・」
イバラークの顔が苦悶に歪む。
ティーヴァは剣を鞘から抜く。
そして剣先をイバラークに定める。
「・・・・・・おい」
「なんだ」
「まずはズボンをはけ! そして臭ぇっ! 何食った!? どこかにくっついてるんじゃないか!?」
イバラークは袖で鼻を押さえる。
強烈な異臭にイバラークは苦悶の表情を浮かべ、脂汗まで出てくる。
「何!? しまった、急に貴様が来るからはき忘れた! ちょっと待ってろ!」
ティーヴァが草葉の陰に戻っていく。
しかし、すぐに野太い悲鳴が上がる。
「ぬがぁあああ!? ズボンにくっついとるぅ!」
「また明日来るわ・・・・・・」
イバラークは家路につくのだった。




