ギルドマスターを襲う聖騎士団の男①
彼が見た祖国。
それは地獄。
任務で遠い外国へと行っていた。
隣国に攻められている祖国に支援を。
彼の任務ははるか遠く離れた大国への特使。
敵対はしていないが決して友好とは言えない国。
祖国に攻め入る国の危険性を説き、牽制を呼びかける。
祖国の周辺国は自国に攻め入られる事を恐れ、支援を拒んだ。
唯一可能性のある友好国、ハーポーンには国でもっとも信頼されている者が向かった。
彼ならばハーポーンを動かせるだろう。
だが、ハーポーンは強い軍を持たない。
平和を愛する国だ。
ハーポーンも自国を守るだけでも精一杯の状態だろう。
祖国を救うには足りない。
だから、彼が遠く離れた大国を動かす為に使わされた。
交渉は進まず、歯噛みしていた所に届いた知らせ。
祖国に侵攻国が本格的に攻め入った。
彼は祖国へ走った。
いくら馬を飛ばしても二週間。
情報が自分の所まで届いた時点で既に情報は古い。
祖国にたどり着く前に見たのは一筋の光が祖国に滑り落ち、直後に巨大な地震と火柱を上げたところだった。
彼はわかっていても信じたくはなかった。
実際にそれを目にするまでは。
祖国があったはずの場所の近くまで来ると山ができていた。
草木の一切生えていない山である。
山を越えていくにしたがって恐ろしいほどの熱気が彼を襲った。
山の頂上から見た祖国、そして侵攻国。
だった場所。
大地が灼熱し、一切の生命体を消し去っていた。
そこに人が住む土地があったなんて事は誰が想像できるだろう。
祖国ムル。
聖騎士団という稀に見る強さを持つ軍を持ちながら、決して他国を攻めようとせず専守に徹していた国。
戦乱が続く世界でその精神は他国の攻め入る隙となった。
侵攻国はノゴリア。
貧困にあえぐ国だった。
戦争で奪い続けなければ飢えてしまう。
いくら強くても守るだけではやがて疲弊する。
ムルは少しずつ削られていった。
それでもムルは戦わずに済む道を模索した。
他国からも『他国に攻め入るのなら覚悟をするように』というポーズをとってもらうだけでも違っただろう。
しかし、当時の国々は自国の事で精一杯で他の国を救援する余裕など無かった。
また戦乱が続き、疑心暗鬼になっていたのも大きい。
兵を派遣して手薄になった所を強襲すれば大打撃を与えられる。
それを思えば兵は出せないし、物資だってそうだ。
特に食料の問題は大きい。
そもそもが食料に不足が出なければこんな泥沼の戦争状態にはならなかったのではないか。
彼はマグマが煮えたぎる大地を見下ろして膝から崩れ落ちる。
極度のストレスと疲労で彼の意識は薄れていく。
薄れていく視界の中で、はるか向かいの山頂に人影が見えた。
特徴的な鎧。
あれは聖騎士団の鎧。
白を基調としたローブに白銀のプレートが縫い付けられたムルの精鋭。
そして、地形を変えるほどの力を持つ男。
彼の中でこの地獄のような光景を生み出したであろう男の顔を思い浮かべ、その名を口に出す。
「・・・・・・イーヴル・・・アーク」
彼の視界は暗転する。
読んでくださる皆さん、いつもありがとうございます。
先日書かせていただいたワタクシのWebサイトの準備が着々と進んでおります。
イバラーク達の姿をイラストでお見せする事があと少しでできそうです!
みなさん、楽しみにしていてください!




