ギルドマスターも知らないホッカイの過去⑬
イバラーク(32)
農業ギルドのギルドマスター。
赤みがかった短い髪で身長が高くガタイも良いので農業ギルドより戦士ギルドのギルドマスターのほうがしっくりくる。
農業以外は何でも器用にこなす。
ホッカイ(19)
輝くような銀髪に青い目を持つハーポーンの英雄。
農業初心者だが、農業が好きすぎて農業をしているとしょっちゅうデフォルメされた二頭身の姿になっている。
アキータ(17)
紫がかった長い黒髪で髪色と同じ色の目は大きい。怜悧な美貌の持ち主。
天才薬士として有名。
地獄の底からやってきたイバラークの天敵。
ラリィアはテーブルに立てかけていた棒状の袋に手を伸ばす。
袋から取り出されたのはコクティーノの角材。
木材なのに黒い。
漆黒と言っていい。
光沢があり、手触りは滑らか。
「おいおい、この金貨で足りるか、これ・・・・・・」
イバラークがラリィアの持つ角材を見て呻く。
彼女が言うように、亡くなった旦那は相当腕の良い職人だったようだ。
イバラークもそんなに多くコクティーノ材を見てきたわけではないが、明らかに並みの素材とは一線を画す逸品である事がわかる。
「もちろん、お代は要りません。ホッカイさんに使ってもらえるのなら、主人も喜ぶでしょう」
「ふぁ!?」
イバラークの目が飛び出る所だった。
それだけの逸品なら値段がいくらでもつり上がるような名品である。
それをタダでくれるというのは気が引けるが・・・・・・
「ぃやっほう~い! やったな、ホッカイ! こんなもん二度と手に入ら――ぶっ!?」
アキータがおもむろにラリィアから角材を取り上げると、イバラークの顔面をフルスイングした。
無残な屍が床に転がっている。
残念ながら死者数が一人分プラスされたかもしれない。
ホッカイは首を横に振って、受け取れない事を示した。
アキータも(既に使用済みだが)角材をラリィアに返そうとする。
「もらってあげて下さい。あの人の形見なので、どうせならそれを扱うのに一番ふさわしい人に使って欲しいんです。私の夫が手がけた木材は『あのホッカイ』さんが使うほどの素晴らしい素材なんだ、って自慢させてください」
「私からもお願い致します」
食堂に現れたのは村長ともう一人。
昨日言っていた木材の職人だろう。
「村長・・・・・・」
「ホッカイさん、この村はみな職人ばかり。自分が手がけたものが素晴らしい使い手に選ばれるというのは何よりの栄誉。どうか、彼女の思いを汲み取ってやってはもらえませんか」
村長が頭を下げる。
「そうだぞ、ホッカイ。コクティーノがタダでエフンエフン、ただでさえ最高級のコクティーノは手に入らないんだ。好意に甘えとけ」
生きていたか。
「どうやって沸いて出た。やはり四肢をもいで心臓に杭を打っておくべきだったわ」
村長に続いてラリィアも頭を下げていて、とうとうホッカイは折れた。
「・・・・・・ありがたく使わせてもらう」
「はい!」
顔を上げたラリィアはとても嬉しそうだった。
「良かったな、ラリィア。さて、皆様。加工の方はこのウーズがやりますので、ホッカイさんの鍬ができるまでもう少々お待ちいただきたい。このウーズはラリィアの夫と一、二を争った職人ですので、お任せいただければと思います」
紹介されたウーズが一歩前に出る。
精悍な顔つきの男だ。
そのウーズも一度大きく頭を下げる。
「あんたらには本当に世話になった。死んじまったライバルのためにも、俺がこの世に二つとない最高の鍬を作ってやる!」
ホッカイは頷く。
そして、自分の部屋に戻り、鍬を持ってくる。
王都で応急処置をしたものの、村の中で耕しまくったせいかまた刃が緩んできていた。
それをウーズに渡し、ホッカイも深く頭を下げる。
「よし、任せてくれ!」
ウーズは鍬と形見のコクティーノ材を持って宿を出ていく。
一緒にラリィアもその場を辞し、その場には村長だけが残った。




