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ギルドマスターも知らないホッカイの過去⑩

イバラーク(32)

農業ギルドのギルドマスター。

赤みがかった短い髪で身長が高くガタイも良いので農業ギルドより戦士ギルドのギルドマスターのほうがしっくりくる。

農業以外は何でも器用にこなす。


ホッカイ(19)

輝くような銀髪に青い目を持つハーポーンの英雄。

農業初心者だが、農業が好きすぎて農業をしているとしょっちゅうデフォルメされた二頭身の姿になっている。

 ホッカイは道をふさぐように立ち、盗賊達をにらみつける。


 道幅から三~四人程度は一度に攻撃がくる。


 それ以上はさすがに攻撃に参加できずに後列で固まっている。


 ホッカイはその三~四人の攻撃を紙一重でかわし続ける。


 もう少しでホッカイの身体に剣先が届きそうだ。


 盗賊達は追い詰めた獲物をなぶるような目で見ている。


 反撃できずにいるホッカイをもてあそぶように執拗に攻撃を繰り返してくる。


 身体を反らし、剣の腹を右手で叩いて逸らし、身体を半身に、今度はかがんで。


 次々飛んでくる剣撃をギリギリでかわし続ける。


 ホッカイの息が少しはずんでいる。


「きれいな顔した兄ちゃんよ、よくここまで頑張ってるけどよ。いい加減そこどいてくれや。このまま続けりゃ兄ちゃんを斬るのなんざもうすぐだぜ?」


 盗賊達はまだこちら側の家を家捜ししていない。


 この村に強盗に入ったからには手柄を持って帰らねばならない。


 ホッカイは首を横に振る。


「バカな兄ちゃん、だ!」


 意表をつくように剣を突き出してくる。


 それをホッカイは頬に触れるギリギリでかわした。


「へぇ、これもかわすかい。スゴイねぇ。でも今までよりさらにギリギリだったねぇ。次は当たるんじゃない?」


 話しかけている最中に盗賊は下から上に剣を切り上げていた。


 会話で注意をそらしつつの意識外からの攻撃。


 盗賊らしいやり口だ。


 しかし、その剣がホッカイに届く前に重く硬いものが盗賊の顔面を捉える。


 顔面をへこませて倒れた男の両隣の盗賊も首筋に手刀と肝臓への鉤突きで倒れる。


「・・・・・・イバラーク」


「何やってやがる。こんな連中相手じゃないだろう」


「・・・・・・」


 急に現れた援軍に盗賊達が慌てて武器を構える。


 しかし、イバラークにはおもちゃを持った子ども程度にしか見えない。


 構えるでもなく悠然と立つ。


「どうして反撃しなかった? ()()()()()()()()()()()()()()()()()お前が」


 そう、決して避けるのに精一杯で紙一重で避けていたのではない。


 十分に攻撃を見極められていたから最小限の動きで避けていた。


「イバラーク、俺はもう誰も傷つけたくない。剣を握るのが怖いんだ」


 ホッカイの顔が苦痛に歪む。


 身体の痛みじゃない。


 心の痛み。


 剣を握ってからというもの戦場を渡り歩き、常に生と死の狭間にいた。


 生きるために殺し、生きるために傷つけた。


 例え敵であろうと。


 例え犯罪者であろうと。


 命を奪ってきた。


 剣を握る事に疲れた頃、ハーポーンにたどり着いた。


 善政をしく王の下、比較的平和な国としてそこにあった。


 剣を捨てたかったが、今まで命をつないでくれた剣を捨てるに捨てられずいた。


 また、それが正しい判断であるかのように、ある時には国の要人を襲う暗殺者に遭遇し、これを撃退。


 またある時には、村を襲う盗賊団に出会った。


 盗賊団など、国同士の戦争に出てくる兵士に比べれば圧倒的に力量不足。


 ホッカイは苦もなく切り捨てていった。


 襲われていた村人達は助かった。


 しかし。


 その盗賊団の中に見覚えのある顔の死体が転がっていた。


 かつて自分が与した国の村人だった。


 その村は戦争で畑が焼かれ蹂躙された。


 ホッカイが助けに入り、村人が全滅する事は免れたのだが。


 きっと食いつなぐには盗賊に成り下がるしかなかった。


 ホッカイは血にまみれた己の手を眺めて心で泣いた。


 自分はただ助けたかっただけなのに。


 命がすり抜けていく。


 飢えが、貧困が戦を招く。


 だからホッカイは剣を捨て、鍬を持って農業の道へと進んだのだ。


「俺は、命を奪うのが怖い。俺の手はもう真っ赤に染まっているんだ。これ以上染まっていくのが怖いんだ」


 ホッカイの顔色は悪い。


 一点を見つめて立っている。


「はん、お前は何者だ」


「俺は・・・・・・」


「お前の職業は?」


「・・・・・・農民?」


 イバラークは襲い掛かってくる盗賊達を投げやりに殴って黙らせながらニヤリと笑う。


「農民の武器ってなんだよ? 言っとくが農民の武器は剣じゃないぞ」


「俺の・・・・・・武器」


 ホッカイは背負っていた鍬を手に取る。


 そうか。


 そうなのか。


 ホッカイの目に力が宿る。


 ズバァアアアア!


 大地に突き立てられた鍬から衝撃波が走る。


 その衝撃波はイバラークの脇を通って盗賊達へ。


「ぎゃぁあああ!? なんだそりゃぁああああ!!」


 ズドォオオオオ!


「ゥグボォオオオオ!?」


 ビッグフッドォオオオオ!!


「ィェティッ!?」


 衝撃波を受けて数人単位で人が舞う。


 あっという間に目の前の盗賊団は壊滅した。


 ホッカイは、「ふぅ、耕した耕した」と満足げな顔だ。


「おし、ホッカイ。まだ女子供が捕らわれてるはずだ。二手に別れるぞ!」


 コクリ。


 ホッカイは力強く頷いた。

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